嘘とワンダーランド
 * * *

そもそもの発端は、今年の春にさかのぼる。

わたしの実家は老舗足袋屋『ふくだや』である。

昔はそれなりに繁盛していたが、最近は洋服の普及により売り上げは低迷気味だった。

だけど、ひいおじいちゃんが立てた店を潰す訳にはいかない。

ひいおじいちゃんにも申し訳ないけれど、ここで働いてもらっている数少ない従業員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。

そこでお父さんが考えたのは、学生時代の友人である大手衣料品メーカー『クロス・リボン』の社長に融資の援助をしてもらうと言うことだった。

融資を援助してもらう代わりに社長が交換条件として出してきたのは、
「私の甥っ子の正文とあなたの娘さんを結婚させて欲しい」
と、言うことだった。

融資援助と引き換えに、お互いの子供を結婚させる――いわゆる、“政略結婚”と言うヤツである。
< 8 / 303 >

この作品をシェア

pagetop