嘘とワンダーランド
「そうですか…。

もう半年ですか…」

知っていたけど、知らなかったと言うフリをした。

「それで、前に若菜が行きたがってた焼肉店へ食事に行こうって」

「えっ?」

わたしの聞き間違いだろうかと思った。

今わたしのことを、
「名前で呼びませんでしたか?」

確かに、課長の口から“若菜”とわたしのことを名前で呼んだはずだ。

しかも、呼び捨てである。

「どうした?

“若菜”はお前の名前じゃないか?」

課長が不思議そうに聞き返してきた。

「そ、そうですけど…。

今までわたしのことを名前で呼ばれたことがなかったから、ビックリしちゃって…」

呟くように言って、課長を見つめた。

本当に、今日は一体どうなっているんだ?

何か変なものでも食べたのかと聞きたくなるくらい、今日の課長の様子はおかしかった。
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