嘘とワンダーランド
「俺の前ではいつも無表情だったから、初めて俺の前で笑ったなって」

そう言った課長の顔も笑っていた。

課長も初めてわたしの前で笑ったと思った。

「そ、そうですか…」

自分の顔の温度が少しずつだけど上昇していることに気づいた。

課長に気づかれていないかな?

もし気づかれてしまったら、どうすることもできない。

「よし、食べるか。

何か決まったか?」

課長に言われて、
「えっ、ああ…」

わたしは慌ててメニューに視線を落とした。

「そう急ぐな、時間はまだあるんだから」

課長が笑いながら言った。

今日は本当におかしな日だと思った。
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