嘘とワンダーランド
「その…」

続けて言おうとしたわたしに、
「夫婦なんだから気にしなくていいよ」

さえぎるように課長が言った。

「はい…」

返事をしたわたしに、
「そこは“うん”でいいだろ?

これから会社の外で敬語を使うのは禁止だからな」

課長が言った。

「わかり…えっと、わかった」

そう言ったわたしに、
「よし、その調子だ」

課長が笑ってわたしと手を繋ごうとしたその時、
「正文?」

誰かが課長の名前を呼んだ。

課長の手がわたしから離れた。

声の方に視線を向けると、黒髪ショートカットの女性がわたしたちに向かって駆け寄ってきた。
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