野球少女だって青春したい
私より背が低く、髪は肩くらいの2つ結び。私の一つ下の彼女は、雪乃ちゃんと言うらしい。私達は三階から一年生の教室がある一階まで階段を下りている。この無駄に長い階段を下りながら、私は雪乃ちゃんに聞いた。

「そういえば、雪乃ちゃんはなんで二年生の廊下にいたの?」

すると雪乃ちゃんは恥ずかしそうに、もじもじしながら

「あの、その、や、野球部の先輩に、手紙を渡そうと…」

雪乃ちゃんは言い終わると一気に顔が赤くなった。成る程、そういうことか。ラブレターを渡すなんて、乙女だな…。

「それで?誰にあげるの?」

私はわくわくしながら雪乃ちゃんに聞く。誰だろうな~?
雪乃ちゃんは気まずそうに言った。

「その…、小野寺先輩に…」

小野寺…ん?私?野球部に小野寺って私以外いないよね…。私、女の子はちょっと…。いや、友達ならいいけど。
雪乃ちゃんは私の混乱などに気付かず、おどおどしながら続けた。

「遥樹くんから「小野寺先輩に渡して」って言われて。野球部に所属してるって言ってたんで…」

遥樹…誰だそれ?雪乃ちゃんはまた顔を赤くして、焦りながら言う。

「私、お、男同士って初めてで、それで、びっくりしちゃって…」

私は理解した。そういうことか、と。そりゃ野球部なんて聞いたら男と思うわ。私は腕を組み、考える。どうしたものか…。なんか、私が小野寺琥珀だってバラしても良いようなバラしちゃいけないような…。
とりあえず私は確認する。

「雪乃ちゃん、その人と会ったことないよね?」

すると雪乃ちゃんは頭にはてなを浮かべ答える。

「ないですけど…?」

ひとまず私は安心した。会っているのに男だと思われたら随分自信を無くしたことだろう。でも、会っていないのなら、小野寺琥珀が女だと知っても、私だと知ってもそこまで罪悪感を感じないだろう。なら、今のうちに言っておいたほうが、後に言いにくくなる何て言うこともない。私は出来る限りの笑顔で言った。

「その小野寺って人、私だからさ。手紙、もらっておくよ。」

雪乃ちゃんは理解出来なかったようで、その場で立ち止まる。そして訪れる三秒間の沈黙。すると雪乃ちゃんは首をかしげ、

「え、先輩男…なん、で、す、か…?」

と言った。私は言葉を失い、金縛りにかかったかのように動けなくなる。そして雪乃ちゃんは大声で言った。

「まさか、女装男子!?すみません、女子生徒の制服だったんで女だと思ってました。」

雪乃ちゃんは勢いよく頭を下げる。先程とは違い、明らかに私を警戒したようで、「それじゃ、失礼します」なんて言って逃げようとしていた。私は金縛りからとけ、走ろうとしていた雪乃ちゃんに向かって、「待って!」と叫んだ。

「違うから!私、女だから!」

私がそう叫ぶと、雪乃ちゃんは振り向き、

「え?」

と困惑していた。
< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop