私立桜恋学園～貴方は何科？～

「皆さん、おはようございます！」

明るい声で皆に挨拶しながら、若い女の人が教室に入ってきた。
周りの生徒はバタバタと自分の席に戻る。
教卓に立った女の人は、生徒をぐるりと一通り見渡した後、口を開いた。

「初めまして、新入生の皆さん。私はこのクラスの担任をする、桜井奈月です。まあ、担任と言っても一週間ぐらいなんですけどね･･･」

そう言って、桜井先生は僅かな苦笑いを浮かべた。

(一週間ぐらい、ってどういう事･･･？)

私は疑問を感じた。
一週間しか担任をしないという事なのか？
何かあって、本当の担任の代わりをしているのかもしれない。
でも、それなら本当の担任の紹介をするはずだ。
色々考えを巡らせながら、私は周りの生徒の様子を見る。
周りの生徒達も、桜井先生が言った言葉の真理が分かっていないみたいだ。

すると、桜井先生はさらに私達を混乱させるような事を言った。

「このクラスも一週間ほどです。一週間後までには皆さんに好きな科を選んでもらって、またクラスを分けます。でも、このクラスの人とまた同じになる可能性も十分にあるので、なるべくたくさんの人と仲良くなってくださいね！」


(クラス替え･･･？何で？このクラスが本当のクラスじゃないの？)

ますます分からなくなった。
そもそも科なんてあったのか、という新しい疑問も出てきた。
ここは商業系の学校ではなく、進学校なので普通科しかないはずなのに。
パンフレットにも科の説明なんてなかった。


「あの、すいません。」

耐えきれなくなって、私は手をあげた。
すると桜井先生は私を見た。

「はい、どうかしましたか？市川さん。」

「質問なんですが、科を選んでクラス替えというのはどういう事ですか？
そもそも科なんて、あるんですか？」

一応合格発表があって、しばらく経った後に学校説明会があった。
その時に一通り説明を受けたが、そんな説明はなかった。

桜井先生は笑顔でこう言った。

「詳しい事は、入学式の時に校長先生が説明してくださるわ。この学校の、本当の姿を。」


【本当の姿】という言葉が何だか重く聞こえた。
質問をしたのに、どんどん分からなくなっている。
そして、違和感が私の心の中で少しずつ膨らんでいった。


私はとりあえずお礼を言って、席に座った。

桜井先生は時計をちらりと見て、再び口を開く。

「さて、そろそろ時間ね。皆さん、入学式を行う体育館へ向かうので、廊下に背の順で並んでください。あ、並び方は大体でいいわよ。後日、身体測定を行ってちゃんと並び替えるから。」

桜井先生の言葉を合図に、生徒達は立ち上がりぞろぞろと廊下に並び始めた。
私も僅かな違和感を感じながら廊下に向かった。