私立桜恋学園~貴方は何科?~
【優梨side】
「あ、そろそろ次の授業始まるね。」
話していた莉愛が言う。
「そうだね。・・・何か、トイレ行きたくなったんだけど、急いで行けば間に合うかな?」
「間に合うと思うよ~近いし。」
「じゃあ、ちょっと行ってくるー」
トイレから出ると、廊下にはもう誰もいなかった。
そのまま教室に戻ろうとすると、男子トイレから見知った人が出てきた。
(あ、東城零・・・)
彼は私に気づいていないのか、そのまま歩いていく。
しかし、彼は階段を上ろうとしていた。
一年生の教室は1階なので、教室に戻るのに階段を使う必要はない。
「ちょ、ちょっと!」
思わず声をかけてしまった。
東城零が振り返る。
後悔してももう遅かった。
「優梨から話しかけてくれるの、初めてだね。」
「そんなんじゃない!・・・あなた、どこに行くの?もうすぐ授業始まるでしょ?」
「あー・・・ダルいから、屋上でサボる。」
東城零はサラリと言った。
その様子を見て、この人は中学の時からよくサボっていたんだろうな、などと考えてしまった。
「・・・もうすぐ、テストもあるんだし・・・出ないと分からなくなるよ。」
私がそう言うと、彼は少し驚いた表情を浮かべる。
「あれ?もしかして俺の事心配してる?」
「・・・な、そんなわけないでしょ!」
(こいつに、心配してるとか思われたくない!)
「・・・もう、私行くからね。」
私は彼に背を向けた。
「・・・待ってよ、優梨。」
声とともに、腕を掴まれた。
そのままグイッと引き寄せられ、私は彼の腕の中にいた。
(これって・・・抱きしめられてる・・・!?)
「ねえ」
彼が私の耳元で囁く。
吐息が耳にかかり、思わず体が僅かに震えた。
私を抱きしめる腕の力は強く、振りほどけない。
蘇る。思い出したくない"あの日"がー・・・
(嫌・・・怖い・・・)
「は、離して・・・お願い・・・」
そう言った私の声は、震えていて今にも消えてしまいそうだった。