私立桜恋学園~貴方は何科?~

「・・・・・・嫌い、じゃない。」

私の口からはそんな言葉が出た。
ほとんど囁きのような声だったから、彼に聞こえているかは分からない。

「・・・でも、優梨はさっき泣いてたじゃん。泣くほど嫌だって事じゃないの?」

彼の表情は真面目だった。
私をからかうために聞いているのではない。
本気で聞いているのだって。
私は思い知らされた。


(何て言えばいいの?・・・でも、あっちが本気で聞いてるなら、私もちゃんと答えなきゃだよね?)

「わ、私が泣いたのは・・・別にあなたが嫌いとかじゃなくて・・・ただ、怖かったの。抱きしめられたのが。だから、あなたじゃなくても私はきっと泣いてた。だから、嫌いって意味じゃないの。そりゃあ、あなたは訳分からない事ばかり言うから、好きってわけでもないけど・・・」


まとまってないな、と私は思った。
自分でも自分が何を言いたいか分からなかった。


「・・・優梨は、男子が苦手、とか?」

「・・・うん、そんな感じ。」

私は静かに頷く。

嘘ではなかった。例え私を抱きしめたのが、東城零ではなかったとしても私は怖くて泣いていただろう。
男子自体が私は苦手なのだ。
そう、あの事件のせいで・・・



「・・・っ」

頭がズキリと痛んだ。

(あ、また頭痛が・・・こんな時に・・・!)

【あの事件】を思い出すと、たまに頭痛に襲われる事がある。

(やばい・・・痛い・・・)

頭を押さえて、私は座り込んだ。

「優梨?」

彼も座り込んで、私の顔を覗き込む。

「具合でも悪い?」

鋭く痛む頭の中に、彼の声が響く。
私は痛みを抑え込むように、手で強く頭を押さえる。
そして、絞り出すように声を出す。

「少し・・・頭が痛いだけ・・・大丈、夫・・・」

私はそう答えながらも、あの時の事が鮮明に頭に映し出されていた。
まるで、映画を見ているような感覚。
でも、フィクションなんかじゃない。
確かに私が経験した、恐ろしい体験。
私が男子を嫌いになった原因。

底知れない恐怖が湧き上がってくる。

(嫌、怖い・・・誰か、助けて・・・!)

今の私は、正常な判断が出来る状態ではなかった。


「助けて・・・!」

「・・・!?」

私は、救いを求めるように、目の前にいる彼の胸に顔を埋めた。
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