ねぇ、私と付き合って。
「わぁ――――…!」
空に手が届きそうだった。
大きなビルもマンションもないそれは、絶景、だった。
綺麗という言葉でまとめてしまっていいか、悩むくらい。
「そんなに珍しい?」
声が聞こえて、私は文字通り飛び上がった。
生徒立ち入り禁止なのに…怒られたら…という不安。
でもそんな私の心配は、杞憂に終わった。
振り返った私の前に立っていたのは、この学校の制服を着た男子生徒だったから。
「もしかして、2年7組に来たっていう転校生?」
「え、は、はい。」
この学校に来てからでは、初めて男子と話した。
なんとなく緊張してしまう私に、その男子生徒はにっ、と笑った。
「清崎薫(キヨサキカオル)。」
「あ…――三原優菜(ミハラユウナ)。」
イケメンだ。と思った。
ちょっと眠たそうな目とか、ふっと緩められた形のいい唇とか。
そういうの以前にまず、オーラがすごい。
あらゆる人をからめとる蜘蛛の巣のようなオーラ。
(彼が王子と呼ばれていることを知る日はそんなに遠くない。)
近づいてみるとかなりの高身長。
180…90はない、よね?…あるかな…
「俺も2年。ってか8組。隣だから三原のことも知ってる。
ていうか、結構お前有名人だけどな。」
8組は、特進コースだ。
かっこいいだけじゃなくて、頭もいいんだなぁ。
なんて私はぼうっと考えた。
「…え、私が有名?」
「ああ。ここ県内では一応一番の進学校じゃん?」
「うん。」
「そこの編入試験を合格――トップクラスの成績で。しかも絶世の美人だってかなり噂されてる。」
「話盛られてない?」
「はは!」
あの頃の薫の笑顔が、一番好きだった。
あれから10年が経っても、度々夢に出てくるあの日のこと。
あれから目まぐるしく変わっていった日々は、
私の一生の宝物だ。