きみの幸せを願ってる
Ⅵ
信じられないような、知らせを聞いて、3日。
更に詳しい結果が出たと言われ、俺は入院するきみの元を訪れていた。
病室は、どこもかしこも白で統一されていて、寒々しい。
消毒液臭いのも嫌だ。
「凛の腫瘍は、良性だったわ」
きみのお母さんが、きみの検査結果を教えてくれた。
病室には、ベッドの上で座るきみを取り囲むように、きみのお兄さんとお母さんと俺がいた。
医者から直接、検査結果を聞いたのはきみのお母さんだけだった。
だけど、特別に家族ではない俺にも教えてくださった。
「その腫瘍が神経を圧迫しているの。手術でその腫瘍を取り除かなくちゃいけないの」
「手術……」
きみがつぶやく。
きみは、ずっと、泣いていたから、目が充血している。
「良性だから癌のように、転移する心配はないけれど、でもこのまま放置していたら、更に神経を圧迫して呼吸をしなくなったり、意識を突然失ったりすることになるかもしれないって……」
呼吸がとまる……。
俺は息を呑んだ。
つまり、このまま手術をしなければ、行きつく先は死……。
きみが死ぬ……?
夢を抱いて、こんなにも輝いているきみが死ぬ……?
「手術を受けろ、凛。金は俺がなんとでもするから」
覚悟を決めた声を出したのは、きみの社会人のお兄さんだ。
だけど、お母さんの顔は晴れない。
「凛。私も手術を受けてほしい。だけどね。この手術はリスクが大きい。手術後に、もしかしたら、記憶を失っているかもしれないの」
ヒヤリ。冷たい刃物のようなものを首筋に当てられたかのように、俺の身体が震えた。
記憶を失う。
手術をすれば、きみは俺のことを忘れるかもしれない?
自分の夢を忘れるかもしれない?
あの輝く瞳も、クルクル変わる表情も見れなくなるかもしれない……?
「嫌だよ〜……!記憶失くすなんて!」
きみは叫んだ。
ここまで取り乱すきみを見るのは初めてだ。
瞳から次々とこぼれ落ちる涙の雫が、シーツに水玉模様をつける。
「今やっと捕まえた幸せを、忘れてしまうなんて……」