きみの幸せを願ってる



きみは、手術をすることになった。


散々悩み、泣き、唇を噛みしめて、ようやく決断を下したのだ。


きみは言った。


「記憶が無くなるのは、100%じゃないんでしょ?後遺症が全く残らない可能性が1%でもあるなら、ちゃんと信じないとね」


そう言って微笑んで見せるきみを、強い女性だと思った。


俺は時間の許す限り、きみの近くにいた。


手術までの日を俺はきみがいつも通りでいられるように、必死になった。


時には冗談できみをからかったり、女の子の話をして、ヤキモチを妬かせたり。


笑って、泣いて、怒って、嫉妬して。


きみの表情をクルクル変えた。


誰もいないときを見計らっては、優しいキスも、息が乱れるような激しいキスもした。


それでも手術の前日の日には、やっぱり不安は襲ってくるもので。


「ねぇ、輝……」


「ん?」


「この前言ったよね?" やっと掴んだ幸せは、絶対俺が手放させないから"って」


「言ったよ。大丈夫。俺がきみを幸せにする。凛」


まっすぐな言葉に、きみの瞳が揺れた。


「私はあなたに何が返せる?」


「何も。生きていてくれるなら、それでいいよ」


きみを喪うかもしれない。
初めて突きつけられた、現実。


命には最期があると教えられた。


「たとえ、きみが俺を忘れていたとしても、俺はきみを愛してる。きみを絶対幸せにする」


そこまで言い切って驚く。
俺って、こんなに喋るんだ、と。


「輝、変わったね」


「凛」


きみも同じことを考えていたらしい。


「昔は『ああ……』って返事しかしなかったのに」


「そうだな。俺も同じことを思った」


「無口なあなたも素敵だったけど、まっすぐ言葉をぶつけてくれるあなたも、もっと素敵」


変えたのはきみだ。
俺はきみに出逢ってから、変わったよ。


「輝。教師になってよ」


きみは、俺が就職活動をしているのを知っている。


"教師は向かないから"という理由も伝えてある。


「俺には向かないって」


「向いてるよ。あなたは誰よりも人のことを考えている。誰かの幸せを願ってる。ついでに努力家だし、勉強好きだし。充分素質あるよ」


ニコっと笑ったきみ。


「輝の教師姿、私、見たいな」


あ、その笑顔、反則。


「いいよ。見せてやる。お前が手術後に、俺のこと、"好き"って言ってくれたらな?」


イタズラっぽく笑って、きみを抱きしめた。


そのぬくもりが温かくて、きみは生きてるという奇跡に、涙をこらえるのが大変だった。


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