きみの幸せを願ってる
Ⅷ
「あなたの名前は何?」
きみのお母さんが、ゆっくりとした声で訊く。
「私は、松下凛」
「年齢と誕生日、自分の学歴すべて言える?」
きみはスラスラと正しい答えを言う。
「じゃあ、あなたの夢は?」
無邪気な声でそれも答えた。
「私の夢は、高校の理科教師。亡くなったお父さんと約束したから」
俺は安堵する。
きみは自分の夢を覚えていた。
「じゃあ、私は誰でしょう?」
きみのお母さんが尋ねた。
「お母さん」
「じゃ、俺は誰だ?」
続いて尋ねたのは、きみのお兄さん。
「お兄ちゃん」
きみの言葉に全員がホッと息を吐いた。
少なくとも、きみは自分のことと家族のことは覚えている。
もしかしたら、きみの記憶は何も失われていないのかもしれない。
だったら、俺のことも……
「じゃあ、俺は誰かわかる……?」
期待半分、不安半分。
恐る恐る訊いた。