きみの幸せを願ってる
Ⅸ
俺は毎日通った。
同じ大学に通う学生、工藤輝として。
その日あった出来事を、教えては、笑いあった。
日に日に、きみにとっては初めて会う俺に信頼を寄せてくれるようになった。
呼び名は工藤くんを輝くんに。
そして、輝くんから、輝になった。
少しずつだけど、ふたりの距離は縮まった。
だけど、きみはずっと、恋人がいないと思いこんでいる。
思い出してくれる気配もない。
「いつか、恋人が出来たらね」
将来恋人と一緒にやりたいことを聞かせてくれるきみに、ズキッと胸が痛むのは、きっと覚悟が足りなかったせい。
どこかで信じていた。
きみと愛し合ったあのかけがえのない日々を、幸せだった日々を、きみが忘れるわけない、って。
恋人の存在が、すっぽり抜け落ちたきみの記憶。
きみのお母さんもお兄さんも、俺を腫れ物扱いにした。
『ごめんなさいね、凛が……』
『いつか、凛は思い出すよ、輝くんのこと』
お母さんは俺に謝り、
お兄さんは俺を励ます。
二人のせいじゃないのに……。
いつも俺に申し訳なさそうな顔をする。
自分たちだけが、覚えていてもらってる、そのことに対して、罪悪感さえも覚えているのだ。
全くそんな必要はないのに。
だから、俺は二人が病院に来る時間を避けていた。
お互い気を遣いあうのは、辛かったから。