きみの幸せを願ってる



洸太さんが、凛に会う。


まぁ、さっきまでの会話からして、お見舞いに行くのは、普通のことなんだろう。


しかし、俺はもう凛のお見舞いに行ったし、すぐにお暇すればよかったのだが……。


なぜか一緒についてきてしまった。



「凛が、あなたのことを忘れていたら、本当にごめんなさい」


洸太さんをきみの病室まで案内しながら、お母さんは申し訳なさそうに縮こまっていた。


「おばさんが謝ることじゃないですよ。手術での後遺症なら仕方のないことです」


洸太さんは、安心させるように、微笑んだ。


お母さんは、洸太さんに俺のことを、凛の恋人だと紹介した。


彼は顔色ひとつ変えず、俺にはじめまして、と言った。


「はじめまして。輝くんか。凛とは同じ大学なのか?」


「はい。同じ学科で」


「凛とはいつから付き合ってる?」


「1年の夏頃から。だけど、今は同じ大学の友人です」


俺は沈黙した。
その沈黙を、洸太さんはきっちり理解してくれた。


「凛は輝くんのことも忘れているんだね」


悲しくなるから、訂正はしない。


俺のことも忘れているじゃなくて、俺のことだけ、忘れている、とは。


「ここです。凛の病室は」


ネームプレートに『松下凛』と書かれた部屋の前だ。


さっきまで俺がいた部屋だ。


また今度なと言って出ていった俺がもう一回来たら、きみに不思議がられるよな。


でも、ここで急に、ではさようならもおかしいか。



「凛。具合どう?」


そうこうしているうちに、きみのお母さんは慣れた様子で、病室のドアを開けた。


「そこで輝くんにも会ったから連れて来ちゃった」


帰ろうか、どうしようか、とグズグズ迷っていた俺を、お母さんは半端強引に袖を引っ張って、病室の中に連れこんだ。


さっき、さよならをしたばかりの俺の顔を見て、きみは笑う。


「やだ。お母さん。輝だって、忙しいのに、引き止めちゃ、ダメじゃない」


「たまには、お母さんも輝くんとお話したいんです」


お母さんも負けじと笑う。


笑ったときに眉が下がるところ、親子そっくりだった。


「あともう一人、凛のお見舞いに来てくれたんだよ」


その言葉を合図に洸太さんが病室に入ってきた。


きみの瞳が、彼を捕らえると、その瞳は驚きに見開かれる。


そして、懐かしさに輝いたのを、俺は見逃さなかった。


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