きみの幸せを願ってる



「洸太くん!!」


きみの明るい声は大好きだったはずなのに、今は鋭いナイフのようにしか感じない。


久しぶり。元気にしてた?
最後に会ったのいつだっけ?
今何やってるの?


きみが言葉を発するたびに、俺の心はズタズタに切り刻まれる。


なんで、覚えてんだよ。
なんで、俺のことは知らなかったのに、洸太さんは分かるんだよ。


きみが手術を受ける前。
1番近くにいて、きみを抱きしめていたのに。


約束もした。


きみの幸せを願ったりもした。


その思い出全部否定されたみたいだった。


きみの楽しそうな懐かしそうな顔を見たくなくて、俺はうつむいた。


こんなにきみの瞳が輝いたのはいつぶりだろう?


俺は唇を噛み締めた。


初恋のひと、洸太さんは覚えていた。


ああ、そうだ。


初恋のひとの名前は"こうたくん"というのだと、教えてくれた日。


俺はきみに言ったじゃないか。


"初恋は特別"だと。


きみをからかうつもりで言った言葉がこんな感じで返ってくるとは、思わなかったよ。


「お母さん。すみません。これから予定あるので、今日は帰ります」


身体中の全ての神経に集中して、平常心を保った。


嫉妬に気が狂いそうだった。


お母さんもきみも洸太さんも、何も疑うことなく、俺を送り出してくれた。


病室を出てひとりになった俺は、溜息を吐き出した。


嫉妬してる。
まさか、自分がこんな気持ちになるなんて。


きみが記憶を失う前には、想像すらしなかった。



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