きみの幸せを願ってる
きみが退院して、大学に復帰するようになった。
だけど、もう隣の席にきみは来ない。
きみは女友だちと、一緒に座る。
きみのスマホには、洸太さんとお揃いのストラップがついている。
洸太さんは、きみに謝り倒して、恋人となったのだ。
きみにとっては、初めての、恋人。
きみはとても幸せそうだ。
大学にいる、友だちとしての俺に、最初の頃は話しかけてくれたけど、今はもう会話はない。
俺が『人前で女子に話しかけられたら恥ずかしいから、話しかけてくるのやめて?』って、強い口調で言ったからだ。
きみのラインも消した。
アドレスも消した。
これでいい。
これできみは幸せになれるんだ。
同じ学部の男子が近寄ってきた。
きみと別れたことを知った男子たちが、俺を励ますためか、しょっちゅう、合コンに誘ってくれる。
「工藤!今夜、合コン行こー!短大の美人が集まるって!!」
「おー!行く行く」
最近俺は、合コンざんまい。
恋人を作る気はないけど、女の子と話している時間は楽しいから、別にいい。
今度はショートカットの可愛い女の子が駆け寄ってきた。
「工藤くん!今度の休みさ!映画行こうよ!!」
「おー!行こ行こ」
少し愛想よくするだけで、女子が集まってくることを知った。
そんな女子たちとも、よく一緒に遊ぶ。
これでいい。
俺がどんなに朽ちていっても。
きみが笑うなら。
きみが幸せなら。
いいんだ。
廊下の端っこで、きみがスマホで電話しているのを見つけた。
「ちょっと、こうたくん??」
きみが笑うと、スマホのストラップが音をたてて揺れる。
きみがいる、そこだけ、陽だまりのように、温かそうで。
俺は安堵する。
今日もきみは綺麗だ。
幸せそうで、嬉しいよ。
end*