きみの幸せを願ってる
Ⅲ
俺にとって初めての恋人になったきみは、きみにとっても、俺は初めての恋人だったらしい。
だから何をするにも、手探りで。
だけど、それも幸せだった。
幸せを身体いっぱいで感じる、きみはどんな瞬間のきみよりも綺麗だった。
お互いの家にも行き来した。
きみのお父さんは早くに亡くなっていたけれど、お母さんとお兄さんには、俺の顔を覚えてもらった。
お兄さんとは、予想以上に親しくなって、連絡先を交換するほどだ。
もちろんきみは、俺の家にも来た。
たまに俺の両親に会うこともあった。
両親は、『あんたの恋人にはもったいない!』ときみを褒めちぎっていたから、俺らの関係は、何も問題なんて起きなかった。
きみが俺のことを好きなのは、学科の人たちは、俺が知るよりずっと早くに気づいていたらしく、ライバルなんて現れることもなかった。
そう。何も問題なんてなかった。
俺はだから、たぶん、自信が有り余って、こんな質問が出来たのだろう。
「凛の初恋の人って誰?」
今まで彼氏がいなかったとはいえ、好きなひとくらいはいただろう。
それくらい、わかってた。
だから、おふざけ半分で聞いたのだ。
きみは少し悩んでから、こう答えた。
「こうたくん、かなぁ」
「こうたくん?」
「うん。昔お隣に住んでた男の子。たぶん、私より2こくらい上だと思うけど、引っ越ししちゃって、会えなくなっちゃったなぁ」
へぇ。そっか。
そんなつもりはなかったのに、答えた言葉は、思ったよりぶっきらぼうで、きみは突然慌てた。
「え、輝。今は何とも思ってないよ??あくまでこうたくんは、初恋のひとで……」
その焦った顔も可愛くて、別にヤキモチなんて妬いてないけど、ちょっと拗ねてみせた。
「どうだかな。初恋の人は、結構特別ってよく言うじゃん」
「そんなこと、ないって。今は輝が一番好きだよ!?」
「初恋の人って、男女どっちにとっても、なかなか忘れられないよ。俺もこないだの同窓会でさ。初恋のともちゃんに会ってさ」
え、ときみの顔が曇る。
それを見て楽しんでいるから、俺はきみの言うとおり、相当ドSかもしれない。
「いやー今でも相変わらず綺麗だった。思わず小学生時代の恋心が……」
きみがすごい目で睨んでる。
まぁ、俺には痛くも痒くもないけど。
俺はそんなきみの肩を抱いて、そのまま、その場所に押し倒した。
俺の下でも相変わらず、きみは睨んだまんま。
「嘘だよ。凛。きみが初恋のこうたくんのこと、あんまりにも幸せそうに話すから、ついイジメたくなっただけ。ともちゃんなんて、いないよ」
「輝。私の話にヤキモチ妬いたの?」
「妬いてないよ。別に。凛こそともちゃんにヤキモチ妬いただろ?」
「妬いてない!」
「あ、そんな嘘ついていいの?」
きみの服の裾から、そっと指先を差し入れる。
脇腹をそっと撫でただけなのに、きみの身体がピクッと反応した。
「先に嘘ついたの、輝なのにひどい」
「あ、そうだったな。ごめん。じゃあ、これ以上ひどいことは止める」
差し込んだ手を出すと、あっ、ときみの瞳が悲しそうに揺れる。
本当にクルクル表情が変わるから、面白い。
「輝。やだ。やめちゃ、やだ」
きみの身体から離れた手を、きみは慌てて握りしめる。
きみはどこまでも素直に、俺を求めてくる。
そんなきみだから、俺もまた、全身できみを求めてしまう。