きみの幸せを願ってる



特に大きな喧嘩をしたことがなかった俺らは、恋人になって、2年目の記念日を迎えた。


今や二人でいないときのほうが珍しいくらいだ。


「あー、ここだ!」


今日は日曜日。
きみと二人で、神社に来た。


行きたい、と言ったのはきみのほうだった。


ここは試験の合格祈願で有名な神社らしい。


季節の流れは容赦ない。
そうこう言ってる間に、俺らは教員採用試験を受けることになるだろう。


その合格祈願のために、二人で来たのだ。


だけど、正直、親に薦められたために受ける試験だから、そこまで教師を目指しているわけじゃない。


相変わらず無愛想で、ぶっきらぼうな俺には、教師は向いていないことはわかっている。


だから、俺は試験の勉強の合間を縫って、就職活動も始めていた。


「輝。ほら、しっかり、祈るよ!!」


きみは毎日、猛勉強。
俺も驚くほどの集中力で、試験勉強をしている。


その小さな身体に、はちきれんばかりの情熱を抱き、夢のために努力を惜しまないきみは、きっと素晴らしい教師になるんだろうな。


お賽銭を放り込むと、チャランと音が鳴った。


二人で力いっぱい鈴を鳴らして、それから、手を合わせた。


━━どうか、教員採用試験に、二人共合格しますように。


教師になる気はないとはいえ、やるなら合格したい。


きみには絶対、教師になってほしい。
夢を叶えて、嬉しそうな笑顔を見せてほしい。


10秒ほど、真剣に祈ってから、神様お願いしますと、勢い良く礼をした。


「絵馬書こうよ!絵馬!!」


毎日机上で教科書とにらめっこしているから、久しぶりの外出が嬉しいのだろうか。


きみは、とても楽しそうだ。


『凛も輝も、教員採用試験、絶対合格!!』


そう書いた絵馬をふたりで、かけた。


「私、頑張る」


「俺も」


「絶対ふたりで、合格だよ?約束!」


「わかってるって。約束な」


来週からはお互いの母校で、教育実習が始まる。


子供が大好きなきみは、この実習をとても楽しみにしていた。


その日が近づいているためか、きみの瞳は、眩しいくらいに、明るい。


「ほんと、生き生きしてるな。きみは」


「だって、毎日が幸せだもん!」


だろうな。わかるよ。
きみの幸せの香りがするから。


きみの手のひらを繋いで、俺は歩きだした。



< 8 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop