きみの幸せを願ってる
Ⅳ
特に大きな喧嘩をしたことがなかった俺らは、恋人になって、2年目の記念日を迎えた。
今や二人でいないときのほうが珍しいくらいだ。
「あー、ここだ!」
今日は日曜日。
きみと二人で、神社に来た。
行きたい、と言ったのはきみのほうだった。
ここは試験の合格祈願で有名な神社らしい。
季節の流れは容赦ない。
そうこう言ってる間に、俺らは教員採用試験を受けることになるだろう。
その合格祈願のために、二人で来たのだ。
だけど、正直、親に薦められたために受ける試験だから、そこまで教師を目指しているわけじゃない。
相変わらず無愛想で、ぶっきらぼうな俺には、教師は向いていないことはわかっている。
だから、俺は試験の勉強の合間を縫って、就職活動も始めていた。
「輝。ほら、しっかり、祈るよ!!」
きみは毎日、猛勉強。
俺も驚くほどの集中力で、試験勉強をしている。
その小さな身体に、はちきれんばかりの情熱を抱き、夢のために努力を惜しまないきみは、きっと素晴らしい教師になるんだろうな。
お賽銭を放り込むと、チャランと音が鳴った。
二人で力いっぱい鈴を鳴らして、それから、手を合わせた。
━━どうか、教員採用試験に、二人共合格しますように。
教師になる気はないとはいえ、やるなら合格したい。
きみには絶対、教師になってほしい。
夢を叶えて、嬉しそうな笑顔を見せてほしい。
10秒ほど、真剣に祈ってから、神様お願いしますと、勢い良く礼をした。
「絵馬書こうよ!絵馬!!」
毎日机上で教科書とにらめっこしているから、久しぶりの外出が嬉しいのだろうか。
きみは、とても楽しそうだ。
『凛も輝も、教員採用試験、絶対合格!!』
そう書いた絵馬をふたりで、かけた。
「私、頑張る」
「俺も」
「絶対ふたりで、合格だよ?約束!」
「わかってるって。約束な」
来週からはお互いの母校で、教育実習が始まる。
子供が大好きなきみは、この実習をとても楽しみにしていた。
その日が近づいているためか、きみの瞳は、眩しいくらいに、明るい。
「ほんと、生き生きしてるな。きみは」
「だって、毎日が幸せだもん!」
だろうな。わかるよ。
きみの幸せの香りがするから。
きみの手のひらを繋いで、俺は歩きだした。