見知らぬ愛人
星哉と景子
 アイシテル? そんなの嘘よ。そんな事あるはずがない。

「どうして、そんな心にもないこと言うの? 今頃になって……」

「僕は嘘は言わないよ。本当の気持ちだ」

「だって私たちは……愛とか恋とか、そういう感情抜きの……」

「体だけの付き合いのつもりだった?」

「初めて会った日に誘われて寝るような女よ……」

「あの日、君はとても傷付いているように見えた。それが気になって……。慰めてあげたかったんだ」

「慰めてもらったわよ。誰からも愛されない女を……」

「あの日、ロビーで見掛けて気になっていたんだ」

「えっ? ロビーにいたの? あの日」

「仕事で人と会う約束だった。その人とは会えなかったけどね」

「私も人を待っていたの。会ってはもらえなかったけど……」

「その人は君の恋人?」

「違うわ。そんな人いない。愛とか恋とか私には縁のないものなの」

「どうしてそう思うの? そんなに綺麗なのに、体も心も」

「綺麗? 私が? 私の何が分かるって言うの? 何にも知らないでしょう?」

「知ってるよ。いや、もっと知りたい。何もかも君の事」

「何が知りたい? いくらでも教えてあげるわよ。名前は景子。二十八歳。銀座の片隅で洋服を扱うお店をしてる。あの日は新しく取り引きをしたいブランドの専務さんを待ってたの。でも相手にもしてもらえなかった。四時間待ったのに……」

「えっ? ちょっと待って。そのブランドって、もしかしたら……」

「あなただって知ってるでしょう? 豊田順子ブランド。家の店に置かせてもらいたかったの。でも諦めたわ」

「諦めることないのに」

「あなたには関係のない話でしょう?」

「あるかもしれないよ。そうだ。来週の土曜に一緒にパーティーに行ってくれないかな? ドレスコードは夜のフォーマル。この部屋で待ってるから」

「私なんかでいいの?」

「君じゃなきゃ駄目なんだよ。楽しみにしてるから君のドレス姿」

「あ、名前を教えて……」

「星哉」

「セイヤさん?」

「そうだよ。ケイコ……」
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