見知らぬ愛人
ドレスコード
 次の土曜日。二週続けて会うのは初めての経験。

 ドレスコードは夜のフォーマル。何にしようか迷って赤だけは止めた。私にとっては最悪のアンラッキーカラー。
 正反対のカラーを探して淡いサファイヤブルーの少し背中の開いた柔らかい華やかさのあるドレスに決めた。これ豊田順子ブランドのドレス。
 祖母からもらって作り直したサファイヤのリングも忘れずに。長い髪は巻き髪にして少しいつもと違う雰囲気にした。

 喜んでくれるかな? セイヤさん。鏡の前で自分の姿を見て……。何を考えてるの? まるで恋人に会いに行くみたいに、はしゃいでない?

 ううん、違う。フォーマルな場所でセイヤさんに恥を掻かせない。それだけで充分でしょう? ただ今夜のパーティーのパートナーとして……。

 ホテルに着くと、きょうは特別に人が多いような気がした。

 いつもの部屋のドアチャイムを押す。中からセイヤさんの声が聞こえてドアが開いた。

「ケイコ、すごく綺麗だ。さぁ入って」

 優しい笑顔のセイヤさん。タキシードが良く似合う。

「こんな感じで良かったかしら?」

 本当は自信がなかったりするんだけど……。

「可愛いよ。とても良く似合ってる、そのドレス。でも僕は今すぐにでも脱がせたいけどね」
 って笑ってる。

「駄目よ。バカなこと言わないで」

 まったく、どこまで本気なのか冗談なのか、いまだによく分からない。

 セイヤさんは私の手を取って、そっとキスした。

「今はこれで我慢しておくよ。後で、しっかり可愛がってあげるから……」
 耳元で囁く。

「あっそうだ。ケイコ苗字は? 何ていうの?」

「松岡、松岡景子」

「マツオカケイコ、良い名前だ。さぁ行くよ」

 エレベーターで降りて下の階。華やか過ぎるくらいのパーティー会場。

 えっ? 豊田順子ブランド創立記念パーティー? 何? どうして? 

 驚く私をエスコートして笑顔で会場に入るセイヤさん。

 すると同じくタキシードに身を包んだ男性に声を掛けられた。

「常務、すみません。ちょっと見ていただきたいものがあるんですが」

「分かった。すぐ行く。ちょっと待っててくれるかな? すぐに戻って来るから」

 何? 常務? セイヤさんが常務? どういうこと? 何が何だか分からなくて私は混乱していた。
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