見知らぬ愛人
パーティー
すぐ戻るって言ったのに……。何だか場違いな所に置いていかれて、どうしていいのか分からない。
とにかく、なるべく目立たない場所に移動して……。
壁の花……。誘われない女。私のことかな?
花にもいろいろある。花屋の店先を彩る美しい花も、野に咲く花も。私は、たとえば空き地に咲くセイタカアワダチソウ……。花粉症をも引き起こす諸悪の根源。セイタカ……
きょうは9cmヒールを履いて来たから174cmはある。それでも星哉さん私より背が高かった。185cmくらいかな?
そんなことより星哉さんが豊田順子の会社の常務って? 知らなかった。
先週までお互い名前すら知らなかったんだから……。
会社の創立記念のパーティーに私なんか連れて来て良かったの?
パーティーは始まった。進行役の方がマイクを持って現れた。どこかで見たことあると思ったらテレビで司会などをされている方だった。いろんな方が挨拶に立ち、そして豊田順子がマイクを持って話し始めた。
きょう、こんな形でお会いするとは思ってもいなかった。
おばあちゃん、私、今、豊田順子のパーティーに来てるのよ。いつも話して聞かせてくれた豊田順子の……。不思議な縁を感じてる。
いつの間にか隣りに星哉さんが立っていた。
「ごめん。遅くなって」
「ううん」
豊田順子の話が終わって会場はあたたかい拍手に包まれていた。
「何か飲む?」
「アルコールはいい」
「じゃあ、ジュースね。はい」
「ありがとう」
会場を挨拶しながら、にこやかに豊田順子が近付いて来る。
「星哉さん、紹介してくれないのかしら?」と笑顔で。
「あぁ、かあさん」
ええっ? かあさん? 何なの? 常務だけじゃなくて……。かあさん?
「こちら松岡景子さん。銀座で洋服を扱うお店をしてるんだ」
「銀座? 松岡? あのう、もしかして松岡洋装店の……?」
「はい。祖母の時代には松岡洋装店という名前でした」
「おばあさま? じゃあ、あなたは松岡良子さんの……」
「はい。孫になります」
「おばあさまは、お元気?」
「いえ、五年前に亡くなりました」
「そう。とてもお世話になったのよ。おばあさまには……」
「祖母は私によく聞かせてくれました。豊田順子先生のお話を」
「知らなかったよ。景子のおばあさまと、かあさんが知り合いだったなんて」
私の方こそ知らなかった。星哉さんが豊田順子の息子?
「今夜は私の作ったドレスを着てくださったのね。良く似合うわ。サファイヤブルーの……。そういえば……。おばあさまサファイヤがお好きだったわね。いつも指輪をはめていらした」
「これですか? 亡くなる前に私にくれた物です。口下手な祖父が生涯でたった一度だけプレゼントしてくれた物だって。祖父は亡くなる日まで祖母をとても大切にしていましたから。私にも、そういう出会いがあるようにと……」
「そう。素敵なお話ね。それで? 素敵な出会いはあったのかしら?」
「決まってるだろう」
「星哉なの? 景子さんとは、いつからのお付き合いなのかしら?」
「二年前から付き合ってるよ。僕の一番大切な人だから」
「景子さん今度、家に遊びにいらしてね。おばあさまのお話、ゆっくりしましょう」
笑顔がとてもあたたかくて、一流になる方はやっぱり違うと思った。
「ありがとうございます」
「そうだ。かあさんの作った洋服を景子の店に置いてもらおうと思うんだけど」
「いいわよ。景子さん、あなたが気に入った物をぜひ置いて欲しいわ。後は星哉に任せるから、景子さんの好きな物をお店に並べてね」
「いいんですか?」
「おばあさまに少しでもご恩返し出来るのなら、こんな嬉しい事はないわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね。星哉、ちゃんと景子さんをエスコートなさいね。じゃあ待ってるから。景子さん、またね」
夢のようだった。こんなに早く話が進んでいくなんて……。
とにかく、なるべく目立たない場所に移動して……。
壁の花……。誘われない女。私のことかな?
花にもいろいろある。花屋の店先を彩る美しい花も、野に咲く花も。私は、たとえば空き地に咲くセイタカアワダチソウ……。花粉症をも引き起こす諸悪の根源。セイタカ……
きょうは9cmヒールを履いて来たから174cmはある。それでも星哉さん私より背が高かった。185cmくらいかな?
そんなことより星哉さんが豊田順子の会社の常務って? 知らなかった。
先週までお互い名前すら知らなかったんだから……。
会社の創立記念のパーティーに私なんか連れて来て良かったの?
パーティーは始まった。進行役の方がマイクを持って現れた。どこかで見たことあると思ったらテレビで司会などをされている方だった。いろんな方が挨拶に立ち、そして豊田順子がマイクを持って話し始めた。
きょう、こんな形でお会いするとは思ってもいなかった。
おばあちゃん、私、今、豊田順子のパーティーに来てるのよ。いつも話して聞かせてくれた豊田順子の……。不思議な縁を感じてる。
いつの間にか隣りに星哉さんが立っていた。
「ごめん。遅くなって」
「ううん」
豊田順子の話が終わって会場はあたたかい拍手に包まれていた。
「何か飲む?」
「アルコールはいい」
「じゃあ、ジュースね。はい」
「ありがとう」
会場を挨拶しながら、にこやかに豊田順子が近付いて来る。
「星哉さん、紹介してくれないのかしら?」と笑顔で。
「あぁ、かあさん」
ええっ? かあさん? 何なの? 常務だけじゃなくて……。かあさん?
「こちら松岡景子さん。銀座で洋服を扱うお店をしてるんだ」
「銀座? 松岡? あのう、もしかして松岡洋装店の……?」
「はい。祖母の時代には松岡洋装店という名前でした」
「おばあさま? じゃあ、あなたは松岡良子さんの……」
「はい。孫になります」
「おばあさまは、お元気?」
「いえ、五年前に亡くなりました」
「そう。とてもお世話になったのよ。おばあさまには……」
「祖母は私によく聞かせてくれました。豊田順子先生のお話を」
「知らなかったよ。景子のおばあさまと、かあさんが知り合いだったなんて」
私の方こそ知らなかった。星哉さんが豊田順子の息子?
「今夜は私の作ったドレスを着てくださったのね。良く似合うわ。サファイヤブルーの……。そういえば……。おばあさまサファイヤがお好きだったわね。いつも指輪をはめていらした」
「これですか? 亡くなる前に私にくれた物です。口下手な祖父が生涯でたった一度だけプレゼントしてくれた物だって。祖父は亡くなる日まで祖母をとても大切にしていましたから。私にも、そういう出会いがあるようにと……」
「そう。素敵なお話ね。それで? 素敵な出会いはあったのかしら?」
「決まってるだろう」
「星哉なの? 景子さんとは、いつからのお付き合いなのかしら?」
「二年前から付き合ってるよ。僕の一番大切な人だから」
「景子さん今度、家に遊びにいらしてね。おばあさまのお話、ゆっくりしましょう」
笑顔がとてもあたたかくて、一流になる方はやっぱり違うと思った。
「ありがとうございます」
「そうだ。かあさんの作った洋服を景子の店に置いてもらおうと思うんだけど」
「いいわよ。景子さん、あなたが気に入った物をぜひ置いて欲しいわ。後は星哉に任せるから、景子さんの好きな物をお店に並べてね」
「いいんですか?」
「おばあさまに少しでもご恩返し出来るのなら、こんな嬉しい事はないわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね。星哉、ちゃんと景子さんをエスコートなさいね。じゃあ待ってるから。景子さん、またね」
夢のようだった。こんなに早く話が進んでいくなんて……。