バーフライズ・ストンプ
――センセイとキスをしてしまった

センセイの家から出版社に、どうやって戻ったのか自分でもよくわからなかった。

「はい、確かに受け取ったよ」

編集長がセンセイの原稿を受け取った。

「どうした?

何かあったか?」

首を傾げて聞いてきた編集長に、
「――えっ…い、いえっ…」

わたしは首を横に振って答えた。

「波田先生の原稿も受け取ったことだし、今日はもう帰っていいぞ。

みんなもキリがいいところで終わらせて帰るように」

編集長が呼びかけた。

出版社を後にすると、グレーの壁のマンションが見えてきた。

そっと、センセイとキスした唇を指でさわった。

女の人とキスをしたのは、今日が初めてだった。
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