最強甘々計画
コマーシャルへの憧れは、一枚だけで終わった。
私は〈自分が食べた甘いものノート〉に、〈ボクオ〉とだけ書く。
「何、書いてるの?」
頬杖を突く塩河さんが訊ねてくる。
「甘いもので食べたものは、全部メモしておこうと思いまして」
「へえ……几帳面だね」
「塩河さんはどうして、甘いものがそんなに好きなんですか?」
「俺が子供だった頃、母親が昼の三時になるといつもおやつを作ってくれたんだ。俺はそれがすごく楽しみだった。子供の頃はしょっちゅう泣いててね、同級生に泣かされて家に帰った日も、母親が作ったおやつを食べたら、たちまち元気になれたんだ」
三時のおやつか――日曜夕方のアニメで、主人公一家の子供たちが用意されたおやつを食べる、そういうシーンを時々観るような。小さい時の何気ない時間が、今の塩河さんを作っているんだな。
「甘いものを口に入れると疲れもちょっぴり回復して、仕事も頑張ろうって思えるんだよね」
「そうなんですね。あ、だったら塩河さん、このキャラメル、食べませんか?」
私は自分のハンドバッグから、袋いりのキャラメルを取り出す。本日の食後のデザートをスタンバイしてくれた、せめてものお返しから。
「えっ! いいの?」
塩河さんにキャラメルを一つ渡すと、二人同時にその粒を口に運んだ。
(……甘っ!)
一度噛んだだけで、キャラメルの粘っこさが口内にまとわりつき、唾液が溢れてくる。
これが幼少期の塩河さんを元気にしていた味。大人になった塩河さんを支えてる味なんだ。
「午後からも、頑張ろうね」
塩河さんがふっと笑った。
私は口の中で何とかキャラメルを噛みながら、ノートに〈キャラメル〉と書く。