最強甘々計画
私は足早に、リビング・ダイニング・キッチンへと向かう。
塩河さんは昨日と同じエプロンを着て、キッチンに立って何やら調理をしていた。それによって室内は、甘い匂いが立ち込めている。
「おはよう。今、朝食にホットケーキ、作ってるからね。歯、磨いたら? ままれちゃんの分の歯ブラシ、洗面台に出しておいたから」
(わあっ……)
朝の時間にも関わらず身なりに抜かりのない塩河さんを見た私は、言葉を失った。この流れがまるで同棲生活の、はたまた夫婦生活の一時みたいで、どきどきとする。
塩河さんが自分の恋人だったら、絶対に楽しいだろうな。
「すみません。昨日は寝てしまったみたいで……一晩泊まってしまったみたいで」
「ううん、気にしないで」
昨日は私の寝てる間に、何かあったのだろうか? 私と塩河さんは、一線を越えてしまったのだろうか? そんな質問もできないまま、私は歯を磨いた後、塩河さんと共に朝食を取る。
「ごめんね。昨日クッキー食べたばっかなのに、またホットケーキミックス料理作っちゃって」
塩河さんが後頭部に手を添えながら詫びてくる。今朝はよっぽどホットケーキの気分だったのだろうか? お茶目で可愛いな。
「いいえ、全然。塩河さんが作ってくれたホットケーキ、ふっくらと焼き上がって、とても美味しいです。バターと合いますね」
見た目より甘さのないホットケーキは、何の問題もなく口にできていた。ホットケーキの熱で溶けたバターが、ホットケーキの美味しさをより引き立てる。
私とホットケーキミックスの相性は、かなりいいかも。
「……昨日は俺に食べられたかと思った?」
食事の途中、塩河さんに訊かれた。
「えっ?」
「ままれちゃんのことはまだ食べないよ。デザートは最後に食べるものじゃん?」
――ままれちゃんの誕生日は、俺が祝いたかったけどね。
塩河さんはあの台詞を口にした時みたいな、不敵な笑みを浮かべている。
「……」
緊張と動揺がいっぺんに混ざり、私は頭のてっぺんから手足の先まで硬直する。舌の上ではだんだんと、食べていたホットケーキの味もしなくなる。
それって、塩河さんは私に、その気があるってこと……!?