最強甘々計画


 うちの会社の企画部副部長である塩河さんの第一印象は、なんて白いシャツの似合う男の人なんだろう、というものだった。


 部門の違う塩河さんとの出会いは、およそ三ヶ月前、うちの広報部が企画部との親睦を深めるために開かれた飲み会であった。


 私は甘いものが苦手な以上に、お酒がだめだったりしている。


 飲み会と言っても必ずお酒を飲まなければならないという決まりはないし、何を飲んでも飲まなくても本人の自由だ。


 だけどお酒を浴びるように飲み、我を忘れて酔っている周りを見るとやはり、自分の舌はどうして周りと違ってお酒の味に慣れ親しめないのだろうといった疎外感が生まれる。


 ――もしかして、お酒飲めない?


 座敷の隅で一人でいると、顔見知りでない男性社員が話し掛けに来てくれた。それが当時の塩河さんである。黒髪でさらさらのボブヘアで、甘く優しい顔立ちをしていた。


 直接話したことはないけれど、自分より立場が上である人だし、その存在は知っていた。突然企画部副部長が自分の元にやって来たことにより、たちまち私に動揺が生まれる。


 塩河さんは右手にオレンジジュースを、左手にティラミスの乗った皿を持っていた。この人もお酒が苦手なんだ。出会い頭から、仲間意識が生まれる。


 ――広報部の人だよね? 名前、なんて言うの? 俺は企画部副部長の、塩河鳴(めい)です。


 ――北東(きたひがし)ままれです……。


 目上の人と話す緊張から、語尾になるにつれて声のトーンが小さくなる。


 ――ままれ? ママレードみたいな、美味しそうな名前!


 塩河さんが、口を大きく開けて笑う。


 ――食べちゃいたいなあ。


 そして一瞬にして、蠱惑的な笑みを浮かべた。


 ――えっ?


 ――なーんてね。酒が飲めない者同士、仲良くしようね。


 塩河さんは手にしているものをテーブルに置き、ティラミスを頬張った。「んー」と舌鼓を打ち、美味しそうに味わっている。


 ――塩河副部長は、甘いものが好きなんですか?


 ――もうすぐ三十歳になるっていうのに、子供っぽいよね。


 ――いえ、素敵だと思います。


 甘いものが苦手な私が、その時何故そう言ったのかは今も思い出せない。でも、私が甘いものを克服したいと思ったのは、塩河さんのその笑顔にあった気もする。
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