最強甘々計画


 翌日。仕事を終えてから塩河さんと二人で会った私は、そのまま塩河さんの自宅に招かれた。


 リビングのローソファに塩河さんと一緒に腰掛け、二人で〈自分が食べた甘いものノート〉を見つめる。 母とのケーキバイキングで食べた〈ストロベリーショートケーキ〉以外は、塩河さんと食べてきたものが書き記されている。これは私たちの思い出が、そのまま綴られたノートでもあった。


「俺ももうそろそろ三十歳になるし、今後は健康に気を遣って、甘いものは控えることにする」


 これまで二人で過ごしてきた甘い食べ物だらけの生活と一転して、塩河さんは私にそう宣言した。


「それじゃあ私、これから塩河さんのために、お昼に栄養バランスを考えたお弁当を作りますね」


 私はずっと、塩河さんがお昼にコンビニ弁当ばかりを食べていることが気になっていた。塩河さんは自宅でよくお菓子は作るけど、それ以外の料理はほとんどしないらしい。


「えっ、いいの? 嬉しい」


 塩河さんが笑顔で、私の手を握る。これで塩河さんとまた一つ、二人の約束ができた。私の誕生日が過ぎたら、塩河さんと交わす約束もなくなるだろうという私の心配もよそに、塩河さんとの約束のある日々は、変わらず続いている。


「あっ、そういえば昨日、同期から誕生日プレゼントにって、ママレードを貰ったんですよ。これ、食パンにつけて、一緒に食べませんか?」


 私はハンドバッグから、瓶詰めのオレンジママレードを取り出した。


「あっ、いいね。でも、後でね」


 塩河さんが抱きついてくる。


「わっ」


「『ママレード』なのに、ままれちゃんは全然苦くないよね」


「塩河さんは名前のとおり、そのまま甘いですよね。塩河、シュガー」


「ままれちゃんは甘いものが食べられないのに、俺は甘くていいの?」


「塩河さんだったらどんな味でも食べられますし、食べますよ」


 私は塩河さんの耳輪を、上下の唇で軽く挟んだ。


「あんまりそういうことされると、抑えきれなくなって、このままここでしちゃうかも」


「……先にシャワー、浴びてきますね」


 私は塩河さんの頬にキスをした。
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