最強甘々計画
その数日後。社内報のまとめに追われた私と奈津は、いつもより遅めに、社員食堂で昼食を取る。
「はあ……。想像していた以上に、遠距離ってきついもんなんだなあ……。一日一日が経つのが、やたら長く感じるの。今まで近くにいるのが当たり前だった分、きっついきつい。日本ならまだしも、海外だなんて……」
「うん、うん……」
陽気が取り柄な奈津だけれど、ここのところは元気がなくなっている。私は彼女の話を否定しないことを心掛け、相槌をただ繰り返した。
奈津の彼氏は今月から仕事の関係で、半年の期間、中国に単身赴任となったそうだ。私は遠距離恋愛で不安定となっている奈津の気持ちが落ち着いたら、塩河さんと付き合っていることを彼女に報告するつもりである。
日替わり定食を食べ終えた私と奈津が立ち上がった時、一人の女性社員が私たちのそばを通り過ぎた。
私は彼女を一目見ただけで、ただならぬオーラを感じる。
手入れの行き届いたワンレングスの髪型が特徴的な、アンニュイな雰囲気の漂う美女であったからだ。はっきりとした瞳と筋の通った鼻を持つ、瓜実顔の美人だ。
年齢は三十歳過ぎと予想される。背丈は奈津と変わらなさそうだったので、一七○センチ近くはありそうだ。
腕に通さずに羽織ってある赤いニットのカーディガンは、ショウウインドウのマネキンのように様になっていた。ヒールの音をかつかつと立てながら歩く彼女は通りすがりに、薔薇に似た匂いをふわりと残していく。
トレイを持つ彼女の左手の薬指に、指輪をしているのが見えた。どうやら既婚者のようである。
「うわー。女優みたいに綺麗な人……」
私の口から、思わず本音が漏れた。
「企画部の平幸果(たいらさちか)さんでしょ。ここ最近まで、育児休暇を取ってたみたい」
奈津が言った。何部にいる誰々がイケメンだとか、社内で誰と誰が付き合っているということにやたら詳しい奈津は、通りすがりの美人についても存じ上げていたようだ。
企画部ということは、塩河さんと同じ部か。あんな美人がいるなんて、全然知らなかった。
「平さんって結婚する前は、塩河副部長と付き合ってたみたいだね!」
私と塩河さんが交際していることを知らない奈津が、事情通だと言わんばかりに伝えてくる。
「えっ……」
「三年は付き合ったって、噂だったかな?」
奈津が更に、追い打ちをかけてきた。