最強甘々計画
「母が甘いものが好きなんです。だから今年の誕生日は、母と二人で同じものを食べたいなって」
「お母さん思いなんだね。ちなみに、今までの誕生日には何を食べてたの?」
「梅昆布茶を片手に、お煎餅をかじってました」
子供のやることにしては渋いかな――私は恥ずかしさから、自分の頭を軽く撫でる。
「あはは。親からして見ると、コスパのいい娘だったろうね。でも俺が思うに、ままれちゃんのお母さんはきっと、違うものを食べても同じものを食べても、娘の誕生日を祝う楽しさは変わらないと思うけどな」
塩河さんは優しいから、無理して甘いものを好きにならなくていいんだよ、と言ってくれているのだろう。
「……」
私は上手く言葉を返せなかった。目上の塩河さんに助言をされても、誕生日にケーキを食べるという目標を取り止めるつもりはないからだ。
「……なんて、女の子が頑張ろうとしている気持ちを、無下にはできないね。それじゃあ誕生日までに、何とかしなきゃだ」
塩河さんがそんな私の思いを空気で感じ取ったのか、私の頭をぽんぽんと軽く叩き、協力的な姿勢をまた見せてくれた。
「でも、ちょっと残念だな。ままれちゃんの誕生日は、俺が祝いたかったけどね――」
塩河さんがそこで、不敵な笑みを浮かべる。
「……え?」
どうして塩河さんは、ちょいちょい私に気があるか匂わすような発言をするのだろう――。
「あ、これ、私もやってみたいな」
私は動揺と照れ隠しから、カーナビに目をやった。ちょうど、《コスビナ》という製菓会社から販売されている〈ボクオ〉というお菓子のコマーシャルが流れていた。
〈ボクオ〉は食べたことはないが、二枚の正方形のチョコレートクッキーで、白いクリームを挟んだサンドイッチみたいなクッキーなのは記憶している。コマーシャルではそれを、若手女優が牛乳に浸して食べていた。
「〈ボクオ〉は俺も好き。でも、結構甘いよ」
私はコマーシャルの真似事をしたいという欲望で、唾を飲み込む。塩河さんも甘さレベルを警告してくれているし、今日のケーキバイキングのような残念な結果を繰り返すのは目に見えているのに。
「分かった。明日、ままれちゃんのために〈ボクオ〉と牛乳を用意するね。明日のお昼は、二人で一緒に食べよう」
塩河さんが私の気持ちを最優先した、次の計画を立ててくれた。
塩河さんと昼食――明日の仕事は少し頑張れそう!