最強甘々計画


 過去の恋愛を指摘したにも関わらず、意外にも塩河さんの表情は微塵も変わらなかった。


「俺、前に言ったよね。ままれちゃんと会う前のことは忘れたって」


 塩河さんが私の目から垂れた涙をそっと、親指の腹で拭う。


「私と出会う前の塩河さんのことを、気にしなくていいのに気にしてしまってごめんなさい。でも、二人がどうして別れたのかはせめてお訊きしたいです。私はそれと同じ道を、絶対に辿りたくないから」


 私は訊いた。少しの間の後、塩河さんが口を開く。


「今思い出したけど、幸果……平に二股をかけられてたんだよ。平はそのまま、その人と結婚したんじゃないかな。うちの会社にはいない、どこかのいいとこのお坊っちゃんだって」


「そんな……」


 私は手で口元を押さえる。私もかつて二人目に付き合った彼氏に浮気をされ、そのまま乗り換えられたという経験がある。当時の塩河さんの心境を想像するだけでも、息苦しくなった。


「ちなみにこの部屋には、平とのことがとっくに終わった後で引っ越したけど。でも、それでもままれちゃんが嫌に思うなら、俺は部屋にある家具もベッドも変える。何ならここじゃない、新しい場所に住むよ。


 それでままれちゃんが安心してくれるなら、俺にとっては何も苦じゃない。だって俺はそれほど、ままれちゃんのことを愛しているから。ままれちゃんを安心させられないなら、俺はずっと不安だよ」


 改めて知る塩河さんからの惜しみない愛情に、私は胸がいっぱいになる。
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