最強甘々計画
最強甘々バレンタイン


 一週間も経てば、ここでの生活も大分慣れてきた。


 今日も綺麗な色合いで、朝食の玉子焼きができる。グリルの鮭も、もうすぐ焼き上がりそうだ。


 まだ寝室で寝ているであろう塩河さんを呼ぼうとしたタイミングで、その塩河さんがリビング・ダイニング・キッチンに現れる。塩河さんはあくびをしながら、寝癖のついた頭を掻く。生活空間における無防備な瞬間も、すごく可愛くていとおしい。


「塩河さん、おはようございます。今、朝食の準備をしてますからね」


「おはよう。いつもありがとうね。あっ、新しいエプロン、早速着たんだ」


 塩河さんに買ってもらったばかりの花模様のエプロンを、私は身に付けていた。


「とっても可愛いよ。そしてちょっとエロい」


「もー、塩河さんってば、すぐそういうことを言う」


「……何か、いいね。朝起きてすぐ、キッチンに立ってるままれちゃんがいる。毎日が幸せだよ」


 塩河さんがふっと笑った。


 ――ままれちゃん、あのさ、俺の部屋で一緒に暮らさない?


 塩河さんはイヴの夜、私に同棲の話を持ち掛けてきた。塩河さんと付き合ってからというものの彼の自宅に入り浸ることが多く、半同棲的な日々を送っていた私はそれに賛同し、年が明けてから一ヶ月後にこの部屋へと引っ越してきた。


「今度の日曜日は本当に、どこにも行かなくていいの? 何ならまた、スイートルームに泊まってもいいんだよ」


 塩河さんが私の肩を抱く。


「はい。私は十四日は、ここで過ごしたいです」


 今日は金曜日。明後日の日曜日は、二月十四日だ。二月十四日はバレンタインデーであると同時に、塩河さんの三十回目の誕生日でもある。バレンタインデーが誕生日だなんて、甘党だった塩河さんらしいとも言える。
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