最強甘々計画


 会社に着くと、奈津は自分のデスクでコンビニのおにぎりを頬張っていた。


「おはよう」


 私は彼女の元に寄り、挨拶を交わす。


「あーあー、もう、朝から同棲生活が楽しくて仕方ないって顔してるよ」


 事情通の奈津が冷やかしてくる。


 ――もー! 何ですぐに言ってくれなかったの? 私に気を遣わなくて良かったのに!


 塩河さんと交際していることを今年に入ってから奈津に告げたら、真っ先にそう責められた。一心不乱に私のことを祝福してくれる彼女の姿は、私を嬉しさでいっぱいとさせた。


 私の前で平さんが塩河さんの元カノだと口にしたことも、奈津は申し訳なさそうに謝ってきた。


 それを最初に知った時は戸惑いもあったけど、もう平気だ。塩河さんの過去は、今となっては全く気にしていない。気にも留まらない。


 塩河さんと二人で育む愛が、私を強くさせるんだ。


「塩河副部長のこと、二人でいる時は何て呼んでるの? 『鳴さん』? それとも『鳴ちゃん』? あっ、もしかして呼び捨て!?」


 興奮気味に奈津が訊いてくる。


「えっ」


 私は返答に困った。塩河さんの呼び名は、付き合う前と変わっていない。


 そのことについて深く考えたことはなかったけど、付き合っているんだし、下の名前で呼んだ方がいいのかな。


「あーあー。こりゃ結婚は、ままれんに先越されるだろうなー」


「えー、どうだろう……」


 照れ隠しから、私は奈津からの茶化しをはぐらかす。


 塩河さんとはまだ結婚についての話をしたことはないけれど、私としてはもちろん視野に入れている。しかし今は遠い先のことより、今度の日曜日のことを考えなければ。


 バレンタインデーといえば、日本では女性から男性に親愛の気持ちを込めて、チョコレートを渡すのが様式となっている。


 けれども塩河さんは甘いものを食べなくなったので、定番のチョコレートやそれ以外のお菓子を渡すことは考えていない。


 塩河さんの誕生日兼バレンタインデーまで後二日。私は塩河さんに贈るべきものを模索していた。
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