好看男子
山岸ハナエの場合
空は青い、犬は元気、気持ちはブルー、ブルースリーはあちょちょちょちょー、ちょうちょはふわふわ、わたがし白い、白い雲…雲暗いな、なんか雨降りそう置き傘あったっけ?

「おい山岸、ボーっとすんな。ここはテスト出るぞ」
「あ…すみません」忘れてた、国語だった。一斉に自分に向けられたクラスの視線にいたたまれず、無駄に俯いた。自分、弱ぇ。くそ、あと20分もあるよ、授業なげー。
終わったら速攻帰ろう…コンビニ寄ってなんか買って、今夜はドラマ見てお風呂はいって寝よ。

『いっちゃーん、待って待って私も帰る〜』
『カラオケ寄ってかね?』
帰り際、自分の脇をスルーしてく声はいつものこと、自分が学校に来てるのは義務キョだからだし。

「山岸、ちょっと職員室来い」
「…はい」チッ、なんだよ担任の奴声掛けやがって、帰るとこなのに腹たつ。

「お前、授業中ボッーっとし過ぎ。もう少し気合い入れないと来年の受験大変になるぞ」
「あ、はい…」
「まあ、成績落ちたわけじゃないからうるさく言うつもりないけどな、何か悩みか?友達と喧嘩したとかだったら相談に乗るぞ」
「あ、別に喧嘩とかないし…」友達いねぇもん、喧嘩になるわけないべ、クソ担任。職員室の匂い嫌いだ、なんか紙臭いしインク臭い。

「そうか、ならいいんだ。悪いな引き止めて」
「いいえ別に…さようなら」
「ああ、気をつけてな」
マジ時間ロスったし、なんなんあのクソ担任。口ばっかで心配してるぞアピールかっつーの。なんもわかってないくせに。気分悪っ。

「あ、山岸さん帰る?途中まで一緒に帰ろう」昇降口で隣のクラスの子に捕まる、そういう日?捕まる日かい?
「…私、コンビニ寄るけど?」
「じゃあ、コンビニまで」
いつも思うけどなんか変な子、調子狂う。ぼっちの自分と一緒に帰ろうって?それって一緒にいてはずかしくない?

「山岸さんのクラスってみんないい人ばっかりだよね、楽しそう」
「そう?普通だと思うよ、前田さんのクラス、頭いい人多いよね」
「それな!ほんと困る、授業中友達に手紙も回せないんだよ」
「そうなんだ」こっちは回す友達もいねぇし。

「コンビニ寄るんだよね、じゃあまたね〜」
「バイバイ」コンビニの前で愛想よく手を振る自分がムカつくな、はぁ疲れるー。去年夏期講習で隣の席だったからって、気軽に話しかけてくんなだし。

「アイ、ハンドーハンドー、ブーヨンダ」
「ヨーダ、ヨーダ」
ん?ヨーダ?スターウォーズ?てか、レジに居る客の声でか、日本人じゃないんだ、郷に従えってのぉぉ、コンビニマナー教えたろかぁぁ…
あ、それよかレンちゃん表紙の〜あったあったラス3、いちごミルクとお菓子も買っちゃうし〜

「やば、降ってきた」
コンビニを出た途端、ぽつっと頬に落ちた埃臭い雨粒。うちのマンションの前にトラックが停まってる。
誰か引っ越してきたんだ…何階?壁や床に貼られた養生シートは、うちの階まで続いてるし。
隣玄関前の段ボール『人人 上海』ってヒトヒト上海って何?ヒトヒトだってウケる。

「ただいま」
「ハナちゃんお帰り〜引っ越してきたお隣さんから月餅貰ったよ」ママが興奮気味にテーブルの上の大きな箱の蓋を開けてみせた。うわ、すっごい数、腐るよこれ貰う人の事考えろよって感じだし。

「月餅?要らないし」
「なんかねぇご主人のお仕事で上海に12年も居たんですって、ハナちゃんと同じ年の男の子居るんだって。同じクラスになったら仲良くしてあげるのよ、現地の学校行ってたらしくてね、日本の学校初めてなんだって。中国語ペラペラなんだってよぉ、それでね、」
「ママ、私部屋で宿題するから」ママのお喋りに付き合ってらんない。鞄も置いてないし、着替えてもないのに。ママって本当そういうとこ空気読めない。

あーあ、ほんと、毎日こんなでマジ嫌になる。だるーい。
ベッドにダイブ、クマ代がつぶらな瞳でこっちを見てくれてる。
「クマ代、聞いてよ!帰りに担任に呼ばれてさぁ…」

山岸ハナエ、日常に毒づき、テディベアのクマ代に愚痴る14歳。
友達なし、彼氏なし、精神衛生上よろしくない生活を日々送っている。
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