アクシペクトラム

デートの行き先はベタでした

「ここまで来れば…大丈夫か…」
白羽さんが息を切らして後ろを振り返る。
駅前とは逆の大通りまで私たちは走ってきた。
心臓の音がドクドクとうるさいのは、久しぶりに走ったせいだけではないだろう。
繋がれたままの手がちらりと視界の端に映る。
「あの、白羽さん…手が…」
「え?あー…いいでしょ、このままで」
何、そんなこと?と言わんばかりに流される。
このままって…?!
久しぶりの男性のゴツゴツとした手の感触。
握った手に変に力が入らないよう意識を遠ざけようとした時、
「それよりも、白羽さんってなんか他人っぽいなぁ」
白羽さんが私の顔を覗き込む。
「もっと普通な感じがいい」
「普通って…私たち他人ですから」
「敬語もなしにしてよ。せっかくのデートなんだから」
にっこりと微笑んで、白羽さんが繋いだ手を持ち上げる。
指と指が絡められ恋人繋ぎにされ、私の頬がかぁっと熱くなっていく。
「じ、じゃぁ“白羽くん”。年下だからそれでいいでしょ?」
そもそも下の名前知らないし…
「う~ん…まっ、今はそれでいいや」
不服そうに言いながらも、白羽さんもとい、白羽くんは口元に笑みを浮かべたまま歩き出す。
不本意なことだらけだが、嬉しそうに隣りを歩く白羽くんに、私は勝手にドキドキしていた。
龍宮さんといい、私は一生分のイケメン出会い率を使い果たしたんじゃないかと思う。
カジュアルなポロシャツにジーパン、普通の学生という感じの服装でも、白羽くんが着ていると、まるで雑誌の中のモデルが出てきたようだ。
「それで、これからどこ行くの?」
平静を装いながら、とりあえず行き先を聞いてみる。
「夢の国」
「へ?」
夢の国…?
「俺、一度でいいから行ってみたかったんだ」
白羽くんが繋いでいない方の手でポケットから2枚のチケットを取り出す。
「すげー楽しみ」
そこには“ペアチケットinドリームランド”と書かれていた。
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