アクシペクトラム

休む間もなくハプニング

「ねぇ、白羽くん…もうっ、限界…」

「もう?俺は全然まだなんだけど」

ベンチに座ってぐったりと俯く私を、白羽くんは意地悪そうに笑う。
ジェットコースターに3Dアトラクション、高速回転マシーンなど、あれから絶叫系ばかり乗せられた。
少し休憩のつもりで乗ったコーヒーカップも、ハンドルをこれでもかと思うほど回され、遠心力に振り回されて終わった。
使いようによってはコーヒーカップが一番の絶叫マシーンなのではと、私は乗ってから後悔した。
「じゃぁ、なんか飲み物買ってくる」
白羽くんが売店へと走って行く。
絶叫系が好きなのだろう、両手を上げたり景色を楽しんだり、どれに乗っても白羽くんは元気だった。
もちろん、ジェットコースターの途中にあるお決まりの写真撮影も、白羽くんはバッチリ笑顔で映っていた。
私はというと、落ちる時の怖さから完璧に目を瞑ってしまい、残念な写り具合だった。
なのでもちろん、写真は買っていない。
思い出に残ったってしょうがないから…

具合が良くなるように深呼吸をしていると、
「うぇーんっ、あいすぅーっ…!」
突然、後ろの方から子供の泣き声が聞こえた。
振り向くとそこには、小さな女の子が地べたに座ったまま泣いていた。
転んでしまったのか、膝からは血が出ていて、すぐそばには売店のアイスが無残に落ちていた。
大変っ…!
私はすぐにバックからハンカチを出して女の子に駆け寄る。
「大丈夫っ?!立てる?」
「いたいーっ…」
女の子は座ったまま泣き続ける。
近くにこの子の親らしき人は見当たらず、通り過ぎる人たちがじろじろと見て行く。
私はその場にしゃがみ、持っていたハンカチを女の子の脚に当てる。
「パパかママは一緒じゃないの?」
すると、女の子はボロボロと涙をこぼしながら周りを見渡す。
「パパっ、ママっ…、どこっ?」
はぐれちゃったのかな…
「とりあえずバイ菌が入ったら大変だから、ケガしたとこ洗おうね」
といっても、水道があるお手洗いまで連れて行っている間に、両親が戻ってきたらすれ違いになってしまう。
かと言って、ケガしたまま放っておくこともできない。
どうしたらいいか迷っていると、ふと大きな影が私たちに重なる。
「カオリさん、その子どうしたの?」
両手に飲み物のカップを持った白羽くんが、不思議そうに見下ろしていた。
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