しあわせのかたち
「あの……、阿部は断りました。だって、阿部の事は友達としか思えないから」


そして、私は弥生にも話さなかった心の中にある気持ちを話し出した。


「さっきも言いましたけど、私は主任の事が好きだと思っていたんです。でも……、偶然、阿部が女の人と歩いている姿を見て……。そしたら、自分の気持ちがわからなくなったんです」

「阿部君が女の人と一緒に居る所を見て、ショックだったの?」

「はい。でも、阿部は友達としか思えないし。だから、阿部の事は断ったのですが……。主任の事を好きだと思っていたのですけど、あの時、阿部が女の人と歩いている姿を見て、ショックを受けたのは事実。そしたら、だんだん自分の気持ちに自信が持てなくなって……。だから、ごめんなさい」


私はもう一度、頭を下げる。


「ねぇ、七海。謝らなくていいから、顔を上げて」


碓井主任の優しい声に、私は顔を上げる。


「七海は今、俺の事、どう思ってる?」


そう聞く碓井主任は、まっすぐ私を見つめる。


「えっ……。いや、その……」


断っているのに、さすがに“今も碓井主任の事が気になる”なんて言えない。

好きだと言ってくれている人に、そんな事は言えない。

だから、嘘でもはっきりと“何とも思っていません”と言えたらいいんだけど。

そう思っても、私は口に出来ないでいた。


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