しあわせのかたち
「なのに……、あの主任が来てから、お前おかしいよ。いつも酒を飲んでも平然としているのに、フラフラになるまで飲んでよ……。お前が……、お前がアイツと仲良くしている姿を見たら、もう自分の気持ちを抑えられなくなった」


そこまで言うと、阿部は抱きしめる腕を緩め、そのまま私の肩に手を置く。


「俺、七海の事が好きなんだ。俺と……、付き合って欲しい。俺の側で笑っていて欲しい……」


そう言った阿部の目は、すごく真剣な目をしていた。

阿部はからかっているわけじゃない。

今まで気が付かなかったけど、阿部は私の事を想ってくれていたんだ。

でも……


「私……」

「今はまだ何も言わないでくれ」


返事をしようとする私の言葉を、阿部は遮る。


「七海が今俺の事を男として見ていないのはわかっている。だから、七海は断るだろ?でも、待って。少し……、俺の事を男として見れるか、考えて欲しい……」


そう言う阿部は寂し気な目で私を見ていた。


私は、いきなりの阿部の告白に驚いた。

それに、今、私の心の中にいるのは、碓井主任。

だから、今、断るつもりだった。


だけど、阿部の言う通り、私は阿部の事を中の良い同期としか思っていないし、男として見た事はない。

阿部は真剣に気持ちを伝えてくれた。

だから、私も阿部の事をちゃんと考えなきゃ……


「……わかった。少し……、考えさせて」


ちゃんと考えても、気持ちはかわらないかもしれない。

だけど、私がそう言うと、阿部は「ありがとう」とホッとした表情を見せた。


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