ボクサーな彼女
春になって、理亜は引退試合に挑んでいた。

結果は…入賞。

優勝までは少し届かなかったものの、成果は残して引退した。

「彩、陸、後は頼むぞ!!キャプテンは彩になってもらうが、副キャプテンは…」と理亜は申し訳なさそうに少し言葉をきり、

「陸ではなく、那須崎頼むな。陸は副キャプテンには向いてない。よく頑張ってたけどな…」と言った。

「はい」と大きく頷いた彩と新副キャプテンになった那須崎。

陸は納得したように、「わかった。兄貴に負けないように、俺、頑張る」と言った。

理亜は陸の頭を撫でた。

そして、「卒業したら、俺、プロとして頑張るからな」と言った。

理亜と紀子は卒業式を迎えた。

卒業式終了後、彩は理亜を呼んだ。

誰もいないところに連れていき、

「理亜さん、少し話しても良いですか?」と言った。

「ああ、わざわさこんなところに呼んでか?」と冗談ぽく理亜は言いながらも、少し不安そうな顔をしていた。

「実はね、陸には言ってなかったんだけど…去年の冬の大会後海辺の堤防に座ってる草津さんに逢ったんです。
話してたら…他校のやつにボコられたって。強くなれば強くなるほど、周りから目をつけられて怖い思いをする。
それに…草津さんは引き殺されそうになったらしい!
相手はエンジン全開で突っ込んできたって。幸い、健さんが引っ張って助けてくれたから何もなかったらしいんだけど…。
もし、そんなことがほんとに起きたらどうしよう?って思うのと…
これから来る後輩たちをどう指導し、守っていけばいいのか考えると不安で…理亜さんはもういないし、私に守れるか心配で…」と彩は言った。

「そうか。そう言うことな…確かに陸には言えないわな。アイツは心配性だし、特に…。うん、だな、こんな世界だ。けど、俺はお前を信じてるよ。
だからお前の思った通りに行動すればいい。みんな理解してついて来てくれるだろう。自信持って全力でぶつかりな。
どんな時でも…俺はお前の味方だし、そばで見守ってるから」と理亜に言われ、

頭を撫でられた彩は「わかりました。ありがとうございます!!貴重なお時間取らせてごめんね。けど…聞いてくれてありがとう。少し気持ち楽なった」と彩は笑った。

そして、二人はみんなのいるところに戻った。

「何話してたの?」と紀子が聞くが、「悪いがそれは言えない」と理亜は言った。

「ふーん。それが二人の答えか~仕方ないな。まぁ、好きです!!って言う告白じゃないんだったら許す」と紀子は言いながら、

深く聞かないでくれたことにホッとした彩と理亜だった。

でも陸は少し疑いの目を向けている。

「そのうちわかることになるかもしれない。その時は私が全力で阻止するから、今はまだ言えない。ごめんね、陸」と彩は言った。

陸は言葉の意味を感じ取って何も言わなかった。
数日後ー学校は春休みになった。

春休みの部活はほとんどなく、陸と彩はたくさんデートし、思いきり遊んだ。

新学期ー新入生が入ってきた。

新入生の為の部活紹介で壇上に上がった彩は

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
私はボクシング部キャプテンの平崎彩です。
我が校はボクシング部の名門とし、歴史を作ってきました。
そんなボクシング部でキャプテンを努められること、光栄に思います。
未経験の方も歓迎致しますが、皆さんにはひとつ、理解と忠告をしなければなりません。
うちに来た以上は死ぬ気で戦ってもらいます!!私が入ったときは、私は1ヶ月以上吐きました。
練習が厳しくて吐く人が出てくるかもしれません。それでも私と共に戦ってくれるという強い希望と信念をお持ちの方は是非うちに来てください!!」と言った。

そして、数日後、十数名が希望に来た。

が、体験入部をした数日後に、数名が厳しすぎて耐えられないと辞めていった。

そんななかでひときわ目立つ人物がいた。

毎日吐きながらも必死で食らいついていた。
「名前聞いてもいい?」と彩が聞くと、

「平野 栄介です」と新入生、栄介は言った。

「出身中学は?」と彩が聞くと、「さつき台です」と栄介は答えた。

「さつき台?名門ね、草津さんと同じじゃない」と彩が言うと、

「はい!僕は草津さんに憧れてボクシング始めたんです」と言った。

「そっか。あなた見てると、昔の私を思い出すの。あなた素質あるわよ。だから、本気でやるなら私は応援するし、一緒に頑張るよ。これからもっと厳しくて、もっと吐くかもしれない。それでも私についてくる?」と彩が聞くと、

「はい。もちろんです。よろしくお願いします」と栄介は言った。

「そう。なら早速だけど…グラウンド10周、外回りから行こうか、栄介、カモン」と彩は言ってグラウンドに出た。栄介は必死で彩について走る。

それからというもの、彩はずっと栄介だった。

栄介が吐かなくなったのは、大会の少し前のことだった。

夏の初大会では高1の部で準優勝を飾った。

彩は、もちろん連覇し、防衛に成功した。

彩の目は輝いていた。

優秀な後輩に一生懸命指導する彩は楽しそうで、陸は複雑な気持ちになった。

そして、気がつけば陸は彩と距離を置くようになっていった。

「俺じゃない、俺は栄介みたいに優秀じゃなくて…彩さんが好きなのは優秀でよく出来て、必死に食らいついてく子なんだ」と思い、少しずつ離れていく。

周りもそれは気づいていた。

けど、何も言えなかった。そんなまま夏休みを迎えた。

栄介は一人でも必死で練習に励んだ。

夏休みのある日、理亜は彩を呼び出した。

緊張している彩に理亜は「急に呼び出して悪いな。お前に言いたいことがある。ひとつは、お前が見込んで育ててる後輩についてだ。
アイツ、中々やるな。試合見てたけど…凄いわ。お前はボスに見いだされて育てられて今がある。それをちゃんと後輩に指導していることは良いことだと思った。
もう1つは…陸のことだ。陸のこと、どう思ってんだ?陸はお前の恋人、少しは陸の気持ち考えてくれよ。
最近元気ないから聞いたんだよ。そしたら、彩が後輩の男ばかりを大事にして、俺をほっとくんだって言うんだ。
気持ちはわかるよ。大切な後輩で、お前が見込んだ通り、素質がある。
けどな、それをそばで毎日見てる陸はどうなる?辛すぎるだろ!!
頼むから俺の大事な弟に辛くて寂しい思い、させないでくれ。ただでさえ、控えめで奥手なんだから。それがムリなら陸と別れて、そいつと付き合うんだな」と言った。

「すいません。私、ほんとに疎くて…陸は優しいからつい、甘えっぱなしで。ちゃんと話あいます」と彩は言った。

「俺はな、陸も大事だけど、おんなじくらいお前も大事なんだ。だから二人には幸せになってほしいと思ってるんだよ。だからこそ、こうやってお前に言ってるわけだし…理解してもらえた?」と理亜は言って泣きそうになってる彩の頭を優しく撫でた。そして、笑った。
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