ボクサーな彼女
翌日から、彩はリハビリを始めた。

苦しいリハビリに耐えながら毎日頑張った。

数ヵ月後ー体は少しずつ動くようになっていた。

この日、外出許可をもらった彩は、車イスではあるが、ある場所に向かった。

そこは陸と栄介が試合をしている会場だった。車イスを押してくれているのは理亜で、その横には紀子もいた。

陸と栄介は必死で戦っていた。

彩のほほを涙が伝った。

泣きたいわけではないのに、自然と溢れ出る涙、紀子と理亜は気づいたが何も言わず、ただ見守っていてくれた。

栄介は連覇し、陸も準優勝と功績を残した。

試合を終えた二人は、彩の元へと来てくれた。

彩は必死に涙をぬぐい、笑顔で、「二人とも、よく頑張ってたね!お疲れ様」と言った。

「彩さん」と栄介が言えば、

「かっこ良かったよ!!」と彩が言う。

陸は拗ねたように、「ずるーい。俺だってたくさん頑張ったのに…栄介には及ばなかったけど…俺だって褒めてよ~」と言った。

彩は何とか車イスから立ち上がると、陸に倒れるように抱きつき、「よく頑張った!かっこ良かったよ!!惚れ直した」と言って、あまり力の入らない手で陸を抱き締めた。

「ありがとうございます。彩さん大好きです」と陸は言って、彩を強く抱き締めた。

「お前らなあ、ほんとにところ構わず抱き合うのやめろよな~」と理亜が言うと、

「まぁいいじゃない」と紀子は言った。

「彩ちゃん、毎日大変でしょ?」と紀子が言うと、

「はい。けど、生きてる!!って感じれます。頑張ればその分だけ体が動くようになるんです。それが嬉しくて…」と彩は小さく笑った。

「なるほどね!で、何でそこまで頑張れるんだ?」と理亜が聞くと、

「まだ夢が叶って無いからです!」と彩は言った。

「夢ですか?」と栄介が聞けば、

「うん、夢。プロになるって夢、そして、陸と一緒に暮らす夢」と彩は言った。

陸は嬉しそうに彩を強く抱き締めた。痛みは感じないが、「痛い」と彩は言ってみた。

「ごめん」と言って陸は彩から離れた。

彩は車イスに座りながら、「冗談だよ。ほんとは痛みも何も感じなかった。けど…言ってみた」と彩は言った。

陸は複雑そうな顔をしていた。

「一緒に帰ろうか?」と陸は言った。

「うん、押してくれるの?」と彩が言えば、「もちろん」と陸は笑って車イスを押してくれた。

「悔しいけど…俺は、あの人には敵わないんですね」と呟いた栄介に、

「当たり前だ。敵うわけないだろ?俺だって陸には敵わなかったんだから」と理亜はかすかに笑った。

そして紀子は、「好きだったの?」と栄介に聞くと、栄介は素直に頷いた。

「俺も、好きだったよん」と理亜が言うと、

「ほんとですか!?」とかなりビックリした声をあげる栄介に、

「私だってどんだけ苦労したか…」と紀子は笑っていた。

「そうなんだ…」と栄介は言った。

そんな3人をよそに、陸と彩は二人だけの世界に入っていた。

「あいつら聞いてないからいいよな?」と理亜が言うと、

「そうね!二人だけの世界に入ってる」と紀子は言った。
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