ボクサーな彼女
「兄貴、先帰るね!」と陸は言った。

「おう。俺らも帰ろう。紀子、栄介も…」と理亜は言って、歩き始めた。

紀子は理亜の腕に自分の腕を絡めると、

「ほら、栄介くんも帰るよ」と言った。

そして3人は帰路につく。

彩は陸に車イスを押してもらいながら、たくさん話した。

「調子どうなの?」と彩が聞くと、「順調ですよ」と陸は笑った。

「そっか、練習はどんな感じなの?」と彩が聞くと、

「俺、そんなに厳しくないから…栄介が厳しく指導して引っ張ってくれてるよ。俺がキャプテンで、ほんとに良かったのかな~って思う。時々」と陸は言った。

「そっか。良かったんだよ。私が選んだんだから。栄介が厳しいなら、陸は優しくないと、もたないでしょ?厳しい人ばっかりだったら」と彩は言った。

「そうだよね。ありがとうございます。彩さんにとっては誰が厳しくて誰が優しかったんですか?」と陸は聞いた。

「うーん。難しいなあ~みんな優しかったしね。けど…厳しいなぁって思ったのはボスかな?中学の時からだったけど、鬼かコイツって思ってた。けど、今の私があるのはボスのおかげだから感謝はしてるんだよ?
優しかったのはやっぱり理亜さんかな。私の初恋の人だって本人に言ったことがあったからかもしれないけど、大事にしてくれた。
厳しすぎるボスと優しい理亜さんが私の中では丁度いいバランスだったのよ」と彩は言った。

「そうですか…。俺はどうだったんだろう?みんな厳しくて優しかったからあんまり思ったことなかったかも」と陸が言うと、「なら、それはそれでいいじゃない。みんなあなたのことを大事に思ってくれてたってことよ?」と彩は言った。

「彩さんは厳しかった。俺だけじゃなくて…みんなに…」と陸が言うと、

「そうね。私は確かに厳しかったかもしれないわ。けど、今の自分があるのはあの時厳しく指導してもらったからだ。って思ってもらえたら、私はそれだけで良かったと思うよ」と彩は言った。

「そうですね。俺、やっぱり彩さんを好きになって良かった」と陸は言った。

「今更何よー。私だって、陸を選んで良かったって心から思ってるよ!!私の恋人になってくれてありがとう」と彩は言った。

そんな話をしていると、いつの間にか、家に着いていた。

「じゃあ、またね。今日は久しぶりにたくさんお話出来て、嬉しかったです」と陸は言って、彩にキスをした。唇同士が触れるだけの軽いキス。

「ありがとう」と彩は言って、家の中に入った。そして陸は自分の家へと帰っていった。

翌日から彩は更に頑張り始めた。

陸にパワーをもらい、負けてられないと苦しくて辛いリハビリに耐えながら復帰に向けて奮闘した。

しばらくすると、一人で歩けるようになった。

そして、更に数ヵ月すると、彩は走れる迄になった。

医者も驚くほどに驚異的な回復をする彩、ボスやオーナーも必死でサポートしてくれた。

ある日、オーナーが彩の元を訪れて、「そろそろ始めてみる?」と言った。
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