ボクサーな彼女
そして、会場を後にし、みんなは帰った。
彩はジムに戻った。ジムの隅で体育座りして落ち込んでいる彩にボスは声をかけた。
「お疲れ様。そのままでいいから俺の話聞いてくれ」とボスは言って横に座った。
「中学の時からお前を見てきてるけど、お前はよく頑張ってる。まだプロとしてデビューして2回しか戦ってないんだよ?事故にあってから1年しか経ってなくて、絶望的と言われた中で、よくここまで回復したよ。お前の凄さはそうゆうところだよ。負けない、諦めないところだよ。俺はそんなお前が好きだ。今日の試合、すごくよかったよ。ポイントは充分取れてた。お前がKOされてなかったら、判定で優勢勝ちだったのに、お前は諦めず、最後まで攻撃仕掛けただろ?そんなプレイ見てて…お前らしいなって思った。例えばだけど、6試合戦うとする。その中で、5勝1敗するのと、1勝5敗するのだったらどっちの方が価値があると思う?今のお前はまだどこか勝ちにこだわってる。俺が思うに、勝数多い方が良いって思ってない?俺もプロになるまではずっとそう思ってた。けどな、プロになって、戦っていくなかで、負けることも大切なんだと学んだ。今なら、5勝1敗より、1勝5敗の方がいいと思えるようになったんだ。だから、まだ負けててもいいと思うし、そんなに気負うことないと思うんだ。もちろん、悔し涙ならなんぼでも流せばいいと思うけどな。ムリせず、始まったばかりなんだからゆっくり行こう?なっ?もし、お前の気持ちが変わらないようなら、うちじゃなく、移籍すればいいと思うよ。理亜のいる、坂野ジムに。あそこなら勝ちにこだわってるから。けど、今以上に厳しくなるし、辛いと思う。ここのオーナーほど優しく無いからな。理亜は今でも、勝ちにこだわってる。だから逆に合わないんだよ。あいつなら、坂野ジムを選んで正解だろうな。まあ、お前はお前らしく、ここでゆっくり俺らとトップ目指そうぜ」とボスは言った。ボスらしい励まし方だった。けして、責めることのない優しい口調で、彩の心を解いて言った。彩は、「ありがとうございます」と言った。しばらく二人はそのまま座っていた。
しばらくして、「そろそろ帰ろうか?送るから」とボスは言って立ち上がった。彩も頷いて立ち上がると、ボスに送ってもらい、家に帰った。
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