ボクサーな彼女
「あら?私もずっと一緒にいたいよ?」と彩が言うと、「まだ先になると思うけど…俺と結婚してくれる?」と陸が言った。「2回目だね。もちろんよ。けど、ちゃんとプロポーズはしてね」と彩は言った。「はい」と陸は大きく頷いた。このときは、二人ともボクシングの話はしなかった。「彩さん、ボスについて聞いても良いですか?」と陸は言った。「うん、いいよ。どんなことでも…答えられる範囲なら」と彩は言った。「ボスとの出逢いは…彩さんが中学の時入部したボクシング部のキャプテンだったんですよね?」と陸、「そうよ。私が入りたいって行ったとき、みんなバカじゃね?って顔してた。一番してたのが理亜さんだけどね。けど、ボスはね俺がお前を一人前にしてやるから、本気なら、這ってでも俺に食らいついてついてこいって言ってくれて…かっこよかったんだよね。だから今の私がある、いつもそばで一番近くで励まし、支えてくれた偉大な先輩、私のために、自分の時間をさいてまで練習に付き合ってくれたし…私がデビューして2回目の試合の時も、かっこよかったでしょ?」と彩は目を輝かせて言った。「ごめん、自分で聞いといて…なんか、ちょっとショック受けてる、俺…」と陸は言ってショボーンとしてしまった。
「ごめん、私また無神経なこと言ったよね。けど、私には栄介もボスも、理亜さんや紀子さんみんな大切で、みんな大好きなの。それはわかってほしい」と彩は言った。「うん、大丈夫、わかってる。ちゃんと。けど、情けなくて自分が。兄貴なら、簡単に、『俺以外のやつと話してんじゃねぇーよ。気分悪ぃ』とか言えるんだろうけど、俺はそんなこと言えないから…そう思うときもあるんだよ。俺のことだけ考えてほしいとか、俺に他の男の話しないでほしいとか…」と陸が言うと、「なら、もっと言ってよ。仕事の話してるときに邪魔されたら困るけど、プライベートな話してて嫌なら邪魔してよ。もっと言って。私鈍感だからそういうの気づかないし、よそ見せずに俺だけ見てろよとか、もっと本心でぶつかってきてよ。陸は遠慮し過ぎだよ」と彩は言った。「ありがとうございます。けど、多少の自覚あるなら、少しは俺の気持ち察してくれませんか?」と陸が言うと、「うっ、気を付ける」と彩は言った。「俺は無意識で、自覚無いんだと思ってたから、何も言わずに耐えてきたんだよ?」と陸が言うと、「そうね。うん、わかってる」とだけ彩は言った。「…そろそろ出ましょうか。久しぶりに映画なんてどうですか?せっかく二人でゆっくり過ごせるんですし…恋人らしくデートしましょう」と陸は言って立ち上がった。彩は頷いて、立ち上がり店を後にした。外に出て、陸が先に歩き始めた。彩は追うように後ろを歩いた。しばらくそのまま歩いたところで陸は振り返り、「彩さん」と彩を呼んだ。彩が顔をあげるとすぐそこに陸がいた。「…!!」彩は言葉が出なかった。「ビックリした?俺ね、栄介にも言ったけど、前歩くのも後ろ歩くのも好きじゃない。並んで歩きたいんだよね。だから彩さん、はい、一緒に歩きましょ」と陸は言って手を差し出した。彩はその手をしっかり握った。「あーやっぱりこれが一番いいね。大好きな人と手を繋いで歩けるのって幸せ。俺、彩さんのこと、絶対離さないからね?だから彩さんも俺のこともっと大事にして、たくさん愛して?」と陸は言った。「…わかった…」と彩は小さく返事した。彩はこう言うことを普通に出来て平然と言ってのけられる陸をズルいなと思った。
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