それでもあなたと結婚したいです。
驚きのあまり声が出ない。
(説明しなくちゃ、何でもないって……早く……早く……)
言わなきゃいけない事は、頭では分かっているのに体が動かない。
やっとこのとで声を絞り出す。
「千春さん……違うんです……」
しどろもどろしている私と、千春さんの間に藤森が割って立った。
「今、見られた通りです。俺は花枝が好きです。この気持ちは、あなたにも負けないと思います。」
「…………。」
(千春さん……?どうして何も言わないの?)
「なんで何もいわないんですか?………やっぱりお見合い結婚だから、そこまで好きじゃないって事ですか?……だったら俺に返してください。俺は本気です。」
千春さんは藤森の問いには何も答えず、私の方へ向かってきた。
藤森を通り過ぎる途中、何か小声で藤森に話し掛けたけど、私には何も聞こえなかった。
その後も千春さんは何も言わず私の所まで来て、手を引い壁に押し付けられる。
気づいた時には私は虫ピンで張り付けられた蝶の様に千春さんに捕まえられていた。