それでもあなたと結婚したいです。
「佐伯の奴、早く帰りましょうって言っておいてこの時間までやらせるのかよ……。」
先程から花枝に連絡しても、メールも電話も返ってこない。
会社も退社したようだし、一体どこにいるのか分からない。
マンションの部屋の明かりもついていない。
「もう、俺に会いたくないのか……。」
手には、移動の合間に買ったエッグタルトの紙袋が虚しくぶら下がってる。
「4個も一人でどーすんだよ。」
ドアを開けて真っ暗な部屋に電気を点けようとすると先のリビングのガラス戸がほんのり明るい事に気づいた。
ドクドクと高鳴る胸の緊張を抑え、そっと、ドアを開けると部屋中にキャンドルが灯っている。
「これは………」
リビングのテーブルのキャンドルはハートになぞられていて、いつかの映画で見たような幻想的な世界が広がっていた。
ソファーには白いルームウェアに身を包んだ花枝が猫の様に丸くなって眠っていた。
「俺を………待ってたのか……………。」
すやすやと眠る綺麗な寝顔にそっと近づくと、甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
緊張で震える指で、顔に掛かる前髪を、ゆっくり輪郭に添って避けるとずっと会いたかった顔が出てきた。
瞳は閉じられているけど、それだけでも満足だった。
「良かった……………。」
大人げなく泣きそうになって目を反らすけど、抵抗も虚しく視界がぼやける。