それでもあなたと結婚したいです。
カラオケ店の廊下の陰に男女が二人。
「ねぇ、藤森さん。このまま二人で抜けましょ?ねぇ、いいでしょ?」
若くて可愛い、甘え上手で胸もそこそこ、すっぴんも大丈夫そうだ。
こんな条件のいい女の子に誘われて、フリーの俺が据え膳食わぬのは勿体ないのだろうが、全くその気が起きない。
あの日以来………。
「藤森。………藤森の事は好きだけど、あくまで同僚としてだから………ごめんなさい。あの後、千春さんと色々あって今、プチ家出中なんだ。」
「ごめん!俺のせいで!あそこまでするつもりじゃなかったんだ。ただ、俺の気持ちを伝えたくてー」
「平気!今日、頑張ってもう一度話し合ってみる。サプライズでね。だから、大忙しなの!」
「…………………。」
(やっぱ、お前は凄いよ。俺を恨まないのか?)
「藤森と話したかったのは私達の関係をうやむやにしたまま千春さんとは向き合えないから。ぐぅの音も出ないくらいしっかり説明してみせる!」
「わかった。………ごめんな。」
「ううん。ありがと、好きになってくれて………。だけど、私は千春さんが大事なの。」
「あぁ…………。」
「じゃあ、先…行くね。」
花枝の後ろ姿を見ながら俺は思った。
もう少し早くこの思いに気づければ違っていたのかもしれない。
暫くはこの思いは消えそうにないと。