それでもあなたと結婚したいです。
人の声に驚いて辺りを見渡すと、バルコニーの端に若い男性が立っていた。
長身で癖のある茶色の髪。
濃いブルーの3ピースのスーツをそつなく着こなしている。
「あの………どちら様ですか?」
「別に、ただの招待客。」
(なんかムカつくわね………今日は厄日かしら………取り合えず、絡まれないうちに退散しなくちゃ。)
「そうですか。先客が居るとは知らず、お邪魔しました。失礼します。」
「その腹で出ていく気?恥ずかしくないの?」
(こいつ〰〰〰〰〰!!!黙って聞いてれば!)
「何で見ず知らずのあんたに、腹の心配までされなきゃいけないわけ?そんなのに気づく眼があるなら、もっと女心にも配慮しなさいよ!!」
(はぁ~言っちゃった~!でも、私は間違ってないもんね!あっちが喧嘩売ってきたんだから!私は謝んないわよ!!)
相手の出方を伺っていると、うつむき加減の身体が震え始めた。
(やばっ!マジで、怒ってるこの人?さすがにこの人に殴られたら痛そう。)
「ぷっ!………あははははっ!!マジ、ウケるねあんた!さっきも、そうやってあの女秘書に言えばよかったのに………ククッ…。」
「一体何なんですか………あなた?」
「あんたが会場に入ってきた時から気になってた。これ、俺の名刺。」
男はそう言うと自分の名刺を、私の胸元に差し入れた。
「やっ………ちょっと!!」
「俺は桐島 彩矢(きりしま あや)。」
桐島はそのまま後ろ手に手を振って、バルコニーを出ていった。