それでもあなたと結婚したいです。

目を覚ますと見慣れた天井だった。

何でも揃っている特別室。

立派なキッチンも付いてるが、俺には何の意味もない。

ここに来ると目覚めは必ず最悪に決まっている。

今まで何度運び込まれただろうか。

大学生の頃、運び込まれた時以来だ。

あの時は暫く女性に近づかれたり、二人きりになったりすると手足が震えて上手く動かせなくなった。

大人になってからは上手くやっていたのに………。

先程から何やら女性が俺にずっと訴えかけて来るけど、全く頭に入らない。

まるで水の中に潜ったように、聞こえ辛い。

佐伯も困った様な顔をして、俺をチラチラ見ている。

なんだかもう、全てどうでもいい様な気持ちになってくる。

ただ、早く、家に帰りたい。

その為にはこの騒いでいる女性を早く何とかしなければ。


「もう、帰ってくれ。」


早く帰って…………早く帰って…なんで早く帰りたかったんだ?


「金子秘書。君は会社に戻りなさい。もうすぐ奥様がいらっしゃる………君が居たら気分を悪くされる。」


(奥様………あぁ、そうだ………花枝………。俺は飲み会であの後、倒れたんだ。)


「今の話、どうゆう事ですか?」


(花枝さんがいる………違うんだ………)


上手く説明したいのに頭が混乱して上手く話せない。

名前を呼ぶのがやっとだ。


「花枝さん………。」


「千春さん、気がついたんですか?さっきの話、嘘ですよね?そんな事、………してないですよ………ね?」


「花枝さん…ごめん。でもー」


「千春さん見損ないました。私じゃ無くても誰でもいいんですか?………………バカ!!!」


彼女が泣いている。

何を置いても、今すぐ追い掛けたいのに俺の手足は強張ったまま震えて動かなかった。


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