それでもあなたと結婚したいです。
静まり返った病室、誰も話せずに居たところ口火を切ったのは金子秘書だった。
「………奥様………あんまりです。泉CEOが倒れられたのに怒鳴って出て行くなんて。私が妻ならまず夫の身体の心配をします!」
今までに無いくらい頭にきていた。
今すぐ、怒りをぶつけてしまいたかった。
でも、もう、遅い。
彼女は行ってしまった。
もう、戻ることは無いかも知れない。
俺が、金子秘書とキスをして、押し倒した事は紛れもない事実だ。
弁解しようもない。
「君との事は事故として罪は問わないから、今すぐ、帰ってくれ。」
「でも!私ー」
「金子秘書!!自分の立場をわきまえなさい!」
佐伯が見兼ねてわざと、金子秘書を厳しく叱る。
彼女は最後の足掻きとでも言うように俺に抱きついて囁いた。
「好きなんです………。私じゃ駄目ですか?」
女性特有の甘い武器に虫酸が走る。
「………本当の私を知ったらあなたは私を受け入れられないでしょう。私の妻はそんな私を受け入れてくれた唯一の存在なんです。」
「それじゃあ、私にも本当の泉さんを教えてください!そうすれば私だってー」
「君じゃない………君じゃ駄目だ………。」
「!!」
恐ろしく冷酷に言い放つ自分に驚く反面、俺の心は冷静に相手の目を見据えていた。
どんどんと奈落に落ちて行くかの様に俺の中身が真っ黒くなっていく。