それでもあなたと結婚したいです。
29 波乱の調印式
「今日はM&Jの桐島社長が本契約の調印に御来社致します。全ての準備に皆さん抜かりが無いように!よろしくお願いします!」
今日は遂に大手企業のM&Jとの本契約の日。
白川部長もあの後、何度も話し合いを重ね今日の日を迎えた。
殆んどのM&Jの商品、広告、宣伝関係を一手に任される大口の契約。
喫煙所を通ると白川部長が座っていた。
「白川部長お疲れ様でした。少し頑張り過ぎたんじゃありませんか?」
「花枝ちゃんお疲れ!なんか、久し振りにがむしゃらに働いていた若い頃を思い出したよ。」
「白川部長は一人でやりすぎなんです!もっと部下を信用しなくちゃ。」
「ごめん!ごめん!………でも、全てを把握しておきたいんだ。皆を信用して無いわけじゃないよ。」
「部長らしいです。」
目を細めながら煙草を吸う姿はやっぱり格好いい。
きっとこんな仕草を見て、若い子達が落ちちゃうんだろうな。
「白川部長、今日のネクタイ素敵ですね?」
「あぁ、これ?大分古い物だけど妻に買ってもらったんだ。大事な日は妻の選んでくれたネクタイって決めてるんだよ。」
「へぇ~~それいいですね!私も旦那さんにネクタイプレゼントしようかな?そんな風に験担ぎで着けてくれたら嬉しいし。」
「そうだよ。初めて着けてくれた時も思い出せる。」
「部長………?」
白川部長の時折見せる、この寂しそうな顔。
以前から何度も見ていてずっと気になっていた。