それでもあなたと結婚したいです。
いつもの定例会議が終わり、会議室を出ると、外でいつも控えている佐伯が見当たらない。
さりげなく辺りを見回すと、廊下の端で誰かと電話をしている姿を見つけた。
会議中の取引先の電話は佐伯に代わりに出て貰っていたので急いで近寄ると、どうやら仕事の電話じゃない様子。
「……奥様……」
佐伯の会話から、その言葉を聞いた途端、俺は佐伯から携帯を奪い取り電話に出ていた。
もしもしと問い掛けると、凛と涼しげな声が聴こえてくる。
今まで、女性に心を許せなかった反動か、初めて自分のモノだと主張出来る存在を手に入れて、その存在がいつも心の中心を支配していた。
俺にとってはその支配は心地いいもので、更に今よりも、もっともっとと、彼女を欲してしまう。
電話の内容はパーティーのエスコート役だった。
彼女の傍に居られるなら飛んで行きたい所だが、自分の肩書きに縛られて、簡単には行かない。
秘書には首を振られる。
残念な気持ちで断ると、思いがけない事実を知る。
(あの男が彼女に迫っている?冗談じゃない!)
俺の唯一の人を横取りしようなんて許せない。
気づくと秘書の制止を振り切って独断でその頼みを受けていた。
電話を切った後、秘書からのマシンガンの様な小言に半分耳を閉じて残りの仕事に手をつける。
(今日はずっとこの調子だな………。)
予定が狂うと、うちの秘書はかなりヒステリックだ。