それでもあなたと結婚したいです。

一気に私の身体にのし掛かる彼の身体の重み。


(私達、本当に今日しちゃうの?)


「あっ………。」


抱きつくように上半身をくっつけると、私の耳に頬を寄せて千春さんは囁いた。




「………美緒………」









寸でのところで私は彼を突き飛ばしていた。


(今………何て言った?)


本当はちゃんと聞こえていた。

ドクドクと鳴り止まない心臓だけがその事実を否定する。。

千春さんは倒れたまま動かない。


パニックのまま取り合えず近くの物を引っ付かんで着替えると、財布と携帯を持って家を飛び出した。


(…………………………………………………………………………………。)


頭は真っ白、なにも浮かんでこない。


ただ一つ思い出す。


「…………ミオ………美緒……」


一番聞きたくなかった名前。


「木暮………美緒。」


ぼろっと一粒大きな涙がこぼれ落ちた。




私は泣きながら宛もなく走った。


走って、走って、走り抜いた。


疲れて涙も全て渇れ果てるまで………。


へとへとになって、やっとマンションのエントランス前にたどり着く。


部屋の窓を見上げると暗くなったままで、どうしても中に入る気にはなれず、近くのベンチに座って、目を閉じる。


(私、何してんだろ………千春さんだって酔っ払ってたから仕方ないのに………。)


何度も思い出してしまう。


「元カノだもん。思い出すこともあるもん…………。うう………。」


自分を慰めようと、どんな言葉を並べてみても、目を閉じて上を向いている瞼からは、あんなに泣いたのにまだ涙がこぼれた。


(あの時、どこまで私に対する言葉だったの?………本当は全部、美緒さんへの気持ちだったら…そうだったら………。)


自分で想像した目の前の現実に愕然とする。

私は途方に暮れて、ベンチの上で膝を身体に引き寄せると両腕で抱き締めた。





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